宇宙空間を映し出すステージ後方一面のLEDスクリーンに、尾を引いて流れる彗星。それがひとつステージに墜ちる度に、火柱が吹き上がってビート・クリエイター・チーム3人が一人ずつ姿を現す。そして最後に、ひときわ大きな彗星がステージの中央、高台になった部分に落下すると、大きな花火とともに赤半分・青半分のマントに身を包んだKREVAが登場だ。まるで怒号のような歓声が横浜アリーナを揺らす。約半年、ROUND ZEROからROUND 3までの4本立てツアーを駆け抜けた『KREVA CONCERT TOUR ’09-‘10「心臓」』が、遂に横浜アリーナ公演の2日目、ファイナルに辿り着いた。
さすがにこのサイズの会場に見合った、先の大スクリーンや特効などの大掛かりな仕掛けは用意されていたものの、基本的な流れとしては今回のツアーで披露されてきたパフォーマンスをそのまま踏襲している。つまり、ベースとなるブレイクビーツを組むDJ SHUHO、MPC4000を打ち鳴らす熊井吾郎、超絶スクラッチングを加味してゆくDJ HAJIの3人が繰り出すトラックの上で、(アンコールの“シンクロ”で古内東子が登場する以外は)KREVAが一人でマイク・パフォーマンスを繰り広げてゆくというものだ。サポートMCやゲスト・ボーカリストを入れず、ROUNDを重ねる度に会場のサイズが大きくなっても、この基本形を崩さずにツアーを完遂する。それ自体が、ひとつの大きなトライアルであった。そしてステージ進行のテーマとしては、最新アルバム『心臓』から、ソロ5周年を遡る形でデビュー曲“希望の炎”まで遡ってゆくというもの。メドレーを取り入れながら5年の間に発表してきたヒット曲の数々を歌いこなし、マイケル・ジャクソンのトラックを“あかさたなはまやらわをん”でマッシュ・アップするというアイデアまでが盛り込まれていた。
「俺のことを余り知らない人は、人生で一番の知ったかぶりをして、歌いやすい曲続けていくから、俺に成り代わったつもりで歌って下さい」。大きな会場だからこそ、そこに居合わせるすべてのオーディエンスに配慮しつつ向き合おうとするKREVA。そうしてキャリアを遡っていよいよ“希望の炎”を耳にすると、この5年の間にまったく見事なほどの歌唱力を身につけたKREVAに気付かされることになる。ラップのスキルに関しては誰もが知るところであるけれども、むしろKREVAの5年間というのは「歌」との格闘であった。『意味深』のノリで披露した、ハーモニー・プロセッサー「Vocal PERFORMER」を駆使しての“リズム”の独演。“希望の炎”でのオートチューン使い。そして今回のツアーにおけるハイライトとなった、ヴォコーダーの弾き語りによる“Tonight”。そうしたいわゆる加工声への積極的な取り組みは、それだけ彼が「歌」に、ひいてはメロディに、強くこだわっているということの証明でもあった。
“Tonight”を披露する前に、KREVAは「『心臓』というアルバムは、本当の傑作を作ろうと思って作りました。5年かかりました」と語っていた。僕にとっても、『心臓』は彼のキャリアの中で最も好きなアルバムだ。ありふれた歌謡曲風のメロディでヒップ・ホップを薄めるのではなく、ラップのフロウを微分し再構築することで生まれたようなメロディ。そこには従来のラップとも歌ともつかないような、新しいポップ・ミュージックの形があった。ロックの歴史で例えるなら、ローリング・ストーンズが、ブルース・スプリングスティーンが、U2が、拡大するオーディエンスとライブ会場に対応してそれまでのロックンロールを越えたロックンロールを生み出したように、KREVAは『心臓』でラップを越えたラップを、ポップ・ソングを越えたポップ・ソングを、発明したのである。
僕はずっと、なぜKREVAがメロディに、歌モノにこだわっているのか不思議でならなかった。彼は『心臓』を作りたかったのだ。そうすることで、単に数を集めるという意味ではなく、これだけの数のオーディエンスと真の意味で向き合うための楽曲群を用意することが出来たのだ。これは本当に凄いことである。ショウの基本的な進行は以前のROUNDと変わらなかったのに、ずっとステージ上の出来事に惹き付けられっぱなしで、何度も笑い、感嘆し、嬌声を上げ、拍手した。きっと誰もがそうだったと思う。KREVAが5年を費やして追い求めてきたものは、まさしくそれだったからだ。
すべての座席に色付きの大きなボードが用意されていて、アンコール時にオーディエンスがDJ SHUHOの合図で一斉にそれを掲げ、会場全体に赤・青を背景にした白いハート・マークを描き出すという、KREVAのためのサプライズ・イベントもあった。KREVAは「すげえ奇麗だった、ありがとう」と言っていたけど、何かある、という気配に余程構えていたらしく、「なんだよ、これかよー。ホラ曲いこう曲!」と脱力していたのも印象的だった。ちょっと心配していたのだろう。ライブの演出にも徹底してこだわり、すべてのオーディエンスとのコミュニケーションを成功させようとする彼の完璧主義プロデューサー気質が、ポロリと垣間みられた興味深い瞬間であった。(小池宏和)
セットリスト
1.ACE
2.K.I.S.S.
3.I Wanna Know You
4.キャラメルポップコーン
5.中盤戦
6.これがFall in love
7.あかさたなはまやらわをん
8.くればいいのに
9.THE SHOW
10.ストロングスタイル
11.アグレッシ部
12.リズム
13.この先どうなる?
14.愛・自分博メドレー
15.イッサイガッサイ
16.スタート
17.DAN DA DAN
18.ファンキーグラマラス
19.音色
20.希望の炎
21.Tonight
22.瞬間speechless
23.成功
アンコール
24.シンクロ
25.Tears In My Eyes