デルフィック@原宿アストロホール

デルフィック@原宿アストロホール
デルフィック@原宿アストロホール
デルフィック@原宿アストロホール
デルフィック@原宿アストロホール - pic by Kazumichi Kokeipic by Kazumichi Kokei
テレビでのスタジオ・ライブ一発でレーベル間の争奪戦を引き起こした、英マンチェスター出身の新星、デルフィック。今夏のサマソニ出演に続く来日だが、本来ならば惜しくも公演中止となってしまったブロック・パーティのジャパン・ツアーに帯同する予定でもあったので、BPファンをはじめ国内各地のロック・リスナーがデルフィックを体感する機会が先送りになってしまったのは残念である。一夜限りの東京単独公演が予定通り行われたのは、まだラッキーだったろうか。というわけで、2010年初頭にデビュー・アルバムのリリースも決定して俄然期待感が高まる今回のステージ。みっちりと埋まった金曜日アストロホールのフロアである。

僕個人としてはサマソニでは観ることが出来なかったので、今回の公演が初めてのデルフィック体験となったわけだが、結論から言えば噂に違わぬ素晴らしいパフォーマンスであった。デルフィックは近い将来、間違いなくシーンを牽引するUKバンドとなるだろう。

開演予定時間の19:00を10分ほど回ったところでバンド・メンバーが登場し、眼鏡姿のマットによるクリアなギター・サウンドに導かれて演奏がスタートする。ボーカル兼ベースのジェイムズと、キーボードを含めたマルチインストゥルメンタリスト、リチャードによる透明感のあるハーモニーが重なってゆく。そしてステージ・ドラマーであるダンのビートが鳴り響いた刹那、ダイナミックで荘厳な、力強いバンド・アンサンブルが姿を現した。ディスコグラフィに関してのみ言えば実質的にシングル2曲しか届けられていないデルフィックだけれども、これほど肉感のあるロック・サウンドが繰り出されていることが、まずは驚きである。レコード作品ではシンセ・サウンドやリズム・パートを中心に打ち込みも多いし、正直言って人力サウンド面ではもっとヘナヘナとしているかと思っていた。ほとんど別物じゃないか。

ステージの両翼に陣取るマットとリチャードが、機材のツマミをこねくり回してはけたたましいエレクトロニック・ノイズを放出し、また両者はドラム・パッドも打ち鳴らしてダンサブルなパーカッションを加えてゆく。この辺りの音は、ほぼプログラミングで処理されるのだろうと思っていた。聴こえる音の大半が、人力演奏ならではのライブ感を孕んで聴く者に迫る。熱狂的なライブ/ダンス空間と化すのはもはや時間の問題であった。特に効果的なのが、多くの場合曲の途中からエモーショナルに掻きむしられるマットのギターであった。この人のプレイは例えばブラーのグレアムにも似て、眼鏡姿のインテリ風なルックスからは思いも及ばないほど、ワイルドで攻撃的なものだ。ギターの音ってすげえなあ、と、ロック覚えたての中学生みたいな感想が漏れてしまう。というか実際のところ、マットのギターが高揚とともに走り出すと、フロアからはとりわけ大きな嬌声が上がっていた。この高揚感が実にロック的なのである。

マンチェスター出身バンドというとハッピー・マンデーズ~オアシスというようなラッディズム全開の野郎メンタリティというイメージがあるが、一方でニュー・オーダー~808ステイト~ケミカル・ブラザーズ~ダヴズというような、知的かつナイーブでどこかセンチメンタルな部分も併せ持つダンス・ロックの潮流もある。しかもこの流れというのは、それぞれの時代で非常にエポック・メイキングな音作りをしてきたという特徴があるのだ。デルフィックにもそういう印象があって、エレクトロ色の強いロック・サウンドというと近年ありふれているようだが、例えばリチャードによるキーボードはほとんど波形をいじらない裸同然のポリ・シンセ・サウンドが中心で、それが近代的なダンス・ビートと交わることで独特の感触を生み出している。マンチェスターには、流行のサウンドに逆らいながら新しい主流を生み出す精神性が受け継がれ、或いはそういうサウンドこそが渇望されるムードというものがあるのだろうか。

ライブ本編は“ディス・モーメンタリー”“カウンターポイント”という、既発のシングル2曲をクライマックスに据えてグイグイとフロアを盛り上げていった。曲の途中で一旦長めのリズム・ブレイクが入り、ダイナミックなロック・サウンドに展開するというパターンが見事にデルフィック節として打ち出されている。またこれか、と思いながらも余りの気持ち良さに抗うことが出来ない。必勝パターンなのである。ここまでの本編で正味40分。一度メンバーはステージ袖に引っ込むものの、5秒で再登場。そのままアンコールに傾れ込み、デルフィック初の単独日本公演は幕となった。割と尺が長めにアレンジされた曲が多いが、それゆえに10曲もプレイされなかった。まあ、クオリティ的には満足だったけど。

デビュー・アルバム『アコライト』は2010年1月27日発売予定。すでに重要作確定済みの感すらあるが、楽しみに待ちたいと思う。そして次回来日を果たした暁には、日本各地のロック・ファンに、どうかたっぷりと、その魅力を見せつけてやって欲しい。(小池宏和)

セットリスト(11月27日追記)
1. クラリオン・コール
2. ダウト
3. ハルシオン
4. サブミッション
5. ディス・モーメンタリー
6. カウンターポイント
7. サンクチュアリ
8. レッド・ライツ
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