ニーヨ @ さいたまスーパーアリーナ

2006年に1stアルバム『イン・マイ・オウン・ワーズ』で全米No.1デビューを飾って以来、2007年のグラミー賞受賞作『ビコーズ・オブ・ユー』が1位、2008年の『イヤー・オブ・ザ・ジェントルマン』が2位と、すでにアメリカのR&Bシーンの第一人者としての地位を確立した感のあるニーヨ。2007年には宇多田ヒカルとのコラボ曲“ドゥー・ユー feat. Utada”を配信限定で発表したり、今年9月には日本限定企画のベスト盤『Ne-Yo:ザ・コレクション』(この収録曲として“ドゥー・ユー feat. Utada”も初CD化された)をリリースしたりと、日本との縁も深い。

今回の日本ツアー「Ne-Yo The Collection LIVE 09」は本日からのスタートなので公演内容の詳述は避けるが、そのツアー・タイトルが示しているように、『Ne-Yo:ザ・コレクション』の収録曲がほぼ網羅されたセットリストになっていた。ベスト盤のリリースをフォローしての公演だから、要は稀代の才能を持つシンガー・ソングライター/R&Bシンガーとしてのニーヨの現時点での集大成を目の当たりにすることのできる「ベスト・ライブ」になっているわけだ。

どちらかといえば大がかりな仕掛けで魅せるというよりは、ニーヨ自身やバック・ダンサーたちによる演技やダンスが中心になってセットは展開されていった。もちろんきちんとした舞台装置や小道具があってライティングや映像も駆使されているのだが、それよりはパフォーマーたちの間(主にニーヨとセクシーな女性ダンサーたちの間)で表現されている各楽曲のストーリーのようなもののほうに注意が向く。そしてそんなふうにステージ上で起こっていることに視覚的に気を取られていると、今度はスロー・テンポなナンバーに乗せられるしっとりとしたハイトーン・ボイスにいつの間にか聴き入ってしまう。多面的な魅力のあるステージだった。

カリスマ性というのはほとんど何も語っていないような言葉だけれど、ニーヨにはそういう言い方でしか説明できないような、観る者を惹きつける力が確かにある。切実に胸の痛みや孤独を歌い上げるシリアスさと、「タノシー!」とか「カンパーイ!」とか言いながら白い歯を見せてにっこり笑うときに漂う親密さ、あるいは“セクシー・ラヴ”や“クローサー”などの直球ど真ん中のラヴ・ソングと、「ラヴ・ソングにはうんざりだ」と歌ってそのフォーマットそのものを否定してしまう“ソー・シック”といったさまざま対照のダイナミズムが、「この人は本当のところ、どんな人なんだろう?」と興味をかきたてるからかもしれない。そしてそうした相反する側面が両面ともにリアリティがあって、魅力に溢れているからかもしれない。

そういうコントラストはどんなアーティストにも多かれ少なかれあるものだと思うけれど、こういう大きな会場でのパフォーマンスを観ると、ニーヨの場合はその波及力が桁違いに大きいことがよく分かる。ほとんど天井と同じくらいの高さがある4階席にまでオーディエンスが駆けつけた客席からは、“ビコーズ・オブ・ユー”を始めとして随所で見られたマイケル・ジャクソンへのトリビュートや、服を脱いだり、バラの花を客席に投げたり、酔っぱらったふりをしておどけてみせたりする彼の一挙一動に歓声が上がった。自分の席もステージからは100メートル以上あったはずだが、そんな距離も公演中にはまったく気にならなかった。1週間前には30歳を迎えたニーヨ。これからますます大きな存在になっていくだろうと感じさせるライブだった。(高久聡明)
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