2年ぶりの開催を迎えたSpringrooveは、公演タイトルが示すように「ピットブルがワンマン並のステージ尺でSpringrooveをジャックする」というユニークな趣向である。後にニーヨの出演も決定し、この2組がダブル・ヘッドライナーを務めるという豪華な内容に。まずは3/26、名古屋でパフォーマンスが行われた。そして千葉・幕張メッセでは、R&B/ヒップ・ホップからEDMシーンまでを見渡すスターたちが近年のSpringrooveのスタイルを踏襲しつつ、華やかな競演を繰り広げてくれる1日である。
この日、オープニングDJとして出演したDJ HOKUTOがフロアを温めると、ライヴ・アクトの一番手として登場するのは、昨年メジャー・デビューしたR&Bシンガーのティナーシェだ。ダークなトラックに乗せて迫力の情念ソウル・ヴォーカルを投げ掛け、声の節回しが身体を衝き動かすようにダンスする。凄腕の生ドラムが、力強く表情豊かに支えるパフォーマンスもナイスだった。続くルーマニア出身のダンス・ポップ歌姫=アレクサンドラ・スタンは、情熱的なサックスのプレイが絡むアップリフティングな楽曲でオーディエンスを沸かせる。ノーブラの白タンクにブロンドの髪をなびかせ、伸びやかなシルキー・ヴォイスで魅了するステージだ。
昨年のサマソニにも出演したアジーリア・バンクス(全身ピンクのスキニーな衣装でこちらもノーブラ)は、サポートのダンサーを交えながらも、自身は冒険的なトラックを全力のラップで乗りこなしにゆくストロングスタイル。音楽の先鋭性で言えば、この日の出演者中随一だったかも知れない。その後には、三浦大知が一昨年のSpringrooveに引き続いて登場。ダンスが切れまくるほどに歌声の美しさも増しているのではないかという渾身のパフォーマンスを見せつつ、新曲“Unlock”の後には“Get Up”で言葉の利も活かし、オーディエンスを一斉コーラスに巻き込んでしまっていた。
お祭り番長の役割を担うのはピットブルと思い込んでいたが、いやいや、LMFAOとしてSpringroove出演経験もある8KY 6LU(スカイ・ブルー)の狂騒は尋常ではなかった。飲め飲めコール連呼の“Drink”からフロアに突入して“We Love Girls”、ラストにはLMFAOの“Party Rock Anthem”と、乱痴気パーティのギアが一気に入ってしまうEDMのフロアは壮観である。そしてGENERATIONS from EXILE TRIBEの若武者7人は、オリジナル楽曲に加えORANGE RANGEの“花”カヴァーも披露するなど、名曲を歌い継ぎ、踊って伝えるというスタイルが面白かった。
さて、1日も後半戦というところで、今年2月にアルバム『ダーク・スカイ・パラダイス』を全米1位へと送り込んでしまったG.O.O.D. Musicのビッグ・ショーン。1MC+1DJの硬派なスタイルで、のっけからスキル満点の切迫したラップがオーディエンスのハートを掴み、“Paradise”から“All Your Fault”へと持ち込む。ベース/トラップのファットなトラックが加速しても難なく乗りこなしてオーディエンスから目を逸らさず、ときにはじっくりと語り聴かせるように“High”も披露するなど、絶大な信頼感が滲み出るパフォーマンスを繰り広げていた。
そして、ハットを目深に被り、ステップを踏み出す登場時から完璧にスターの風格を振り撒いていたのが、ニーヨである。ホーン・セクション入りのフル・バンドがゴージャスなソウル・チューンを支え、初っ端から金テープが降り注ぐという力の入りよう。甘いコーラスで女性ダンサーと絡みながら“Don’t Make Em Like You”を歌い上げたかと思えば、爆発的アンサンブルの中でソウルフルなシャウトを繰り出すなど、ニーヨ自身も絶好調であることが伝わる。“Because of You”に“So Sick”といった往年のヒット・ソングはもちろん、終盤戦のダンサブルな展開では“Closer”辺りも生バンドのディスコ・サウンドで華やかに披露された。
いよいよ大トリというところで、ミスター・ワールドワイドことピットブルの熱い日本語プロフィールが、スクリーン上に流れる。こちらも大所帯のバンド編成だ。大歓声に包まれながらピットブルが姿を見せると、いきなり“Don’t Stop the Party”で特大シンガロングが沸き上がってしまった。「どんな国の、どんな人種のどんな民族でも、どんな言葉を使っていても、国境やあらゆる制限を越えて、音楽があればひとつになれるんだ。そうだろ?」と問いかけて生のラテン・パーカッションが効いた“Put Your Hands in the Air”でカチ上げ、「どうだ、ひとつになるのはサイコーだろう!!」と声を上げる。
相変わらず憎めない下世話さを帯びてはいるものの、ピットブルの音楽はいつしか使命感すら漂わせるほどポジティヴで開放的になり、リリックもシンプルに研ぎ澄まされていった。今回のステージは何か、これまで触れて来たピットブルの無責任な楽しさとは一味違う、温かなメッセージと物語性に満ちていた。バンドは曲間にレニー・クラヴィッツの名リフを持ち込んだり、サバイバー“Eye of the Tiger”のインタールードからA-ha“Take on Me”ベタ使いの“Feel This Moment”へと繋げてしまったりする。そんなポップ・ミュージックの普遍性に訴えるスタイルは、一人でも多くの人を巻き込み、楽しませてやろうとするピットブルの意地の表れのように感じられた。
極めつけは、カジュアルな装いのニーヨをステージに招き入れての“Give Me Everything”である。もちろん期待はしていたけれど、途中、この2人のコラボはもしかすると見られないかも、と思う瞬間があった。それぞれのステージが、余りにも高い完成度でパッケージされていたからだ。欲を言えば“Time of Our Lives”もデュエットして欲しかったけれど、この曲が終演SEにピッタリだったので良しとしよう。会場には、スキンヘッドにスーツで決めたピットブルのコスプレ・オーディエンスがあちこちにいたのも楽しかった。PITBULL rules Springroove 2015は翌3/29、神戸ワールド記念ホールに舞台を移して、引き続き繰り広げられる。(小池宏和)
PITBULL rules SPRINGROOVE 2015 @ 幕張メッセ 国際展示場
2015.03.28