The 1975 @ Zepp Tokyo

年始から、すこぶる濃密でスペシャルなライヴを目の当たりにしてしまった。昨夏サマソニでは東京・大阪ともに堂々最大規模ステージに登場、ヘッドライナー・ショウとしては約11か月ぶりとなる、The 1975の来日公演である。筆者は2013年サマソニ→2014年2月の赤坂ブリッツ→同年サマソニのマリン・ステージ、そして今回と観ているのだが、The 1975は観る度に恐るべき速度と濃度の成長を受け止めさせるバンドであり、今回も果たしてその通りであった。しかも今後、どのようなキャリアを築き上げてゆくのか、まったく見当がつかない。末恐ろしいということだけが分かる、そんなバンドなのである。

今回は、昨年のサマソニにもThe 1975と揃って出演した、リヴァプール出身のサーカ・ウェーヴスがサポート・アクトとして帯同。こちらは個人的にサマソニで見逃してしまったので、嬉しい共演だ。盛大な歓声を巻き起こして登場した彼らは、ソリッドで思い切りの良いアンサンブルを鳴り響かせ、キエラン(Vo/G)の瑞々しくフレッシュな歌声が駆け抜ける“Young Chasers”でパフォーマンスをスタート。正ドラマーのショーンが家庭の事情で来日を果たせず、ドラム・テックが代役を務めるという編成だが、ヴォーカルの節回しやギター・フレーズに鋭いセンスを感じさせながら飛ばしてゆくロックンロールは、ザ・ストロークス/アークティック・モンキーズ・チルドレンと呼ぶべき世代感覚を漂わせている。

好反応を示すオーディエンスにサム(Ba)も「トーキョーサイコー!」と昂るのだが、しかしこの熱狂は間違いなく、サーカ・ウェーヴス自身の力強く迷いの無いパフォーマンスの賜物であった。ジョー(G)のギターはときにキラキラと煌めくように響き、“100 Strangers”、さらには今春リリース予定のデビュー・アルバムから“So Long”や“Talking Out Loud”なども披露していった。熱狂を逃さない、ひたむきなライヴ巧者っぷりは、翌1/8の原宿アストロホール単独公演も素晴らしいものにしてくれるだろう。

さて、オーディエンスを焦らすようなSEがじっくり響き渡った末に、黄色い嬌声だけでなく野太い歓声も飛び交い、フラッシュライトに包まれてThe 1975が登場だ。ジョージ(Dr)の鋭利な16ビートが刻まれ、ロス(Ba)による重く歪んだベース・ラインと共に切り出されるのは“The City”。素肌にジャケット姿のマシュー(Vo/G/Pf)は、滑るようなステップを踏んで手招きしつつ、クリアなヴォーカルのフックを届ける。アウトサイダーなアイドルとでも呼ぶべきスター性に満ちたマシューの佇まいや仕草は、高度な照明演出のお陰というばかりでなく、彼自身が少しばかり発光しているのではないか、と思わせるほどだ。

序盤のうちは、幾らなんでもベースの音がでか過ぎやしないか、というバランスが少々気になったけれども、アダム(G/Syn)のシンセ・リフとロスのサンプラー・ベースに彩られた“M.O.N.E.Y.”は生々しい息遣いとエレクトロニックな浮遊感を見事に両立させ、マシューがフィードバックを狙いに行ってはサイケ&ダビーなグルーヴの“So Far (It’s Alright)”に移行したりと、ダイナミックなライヴ感を描き出しながらパフォーマンスが進む。マシューのギターに不調があったのだろうか、歌いながら交換する一幕も見られたが、まるで動じることなくオーディエンスをエンターテインし続け、「自分自身を楽しませろよ、トーキョー」と告げながら“Settle Down”を上質なファンキー・ポップへと仕立て上げてゆくさまが頼もしい。

The 1975の歌のテーマ自体は、古典的なセックス、ドラッグ&ロックンロールだ。ただし、彼らは古典的なロックンロールを鳴らしてはいない。パンクもソウルもレゲエも、アンビエントもUKガラージ以降のダンス・ポップも引っ括めて、やたら訴求力の高いポップ・ソングをデザインしてしまう。古典的なテーマを普遍的に歌うには、音楽を更新していかなければならない。The 1975はそれを可能にしているから、古典的なテーマもリアルに、ロマンチックに響く。サックス奏者のジョンを招き入れての“Heart Out”ではバンドのハーモニー・ワークも鮮やかに決め、マシューがジャケットを柄モノのシャツに着替えてからはムードたっぷりな“Pressure”へと向かっていった。

「お前たちは本当にノイジーだな(笑)。日本のファンは最高だよ」「今度日本でライヴをするのは、次のアルバムを出してからだ」「ケータイを下ろせ。みんなの顔をみせてくれよ」と親密に語りかけるマシュー。パフォーマンスがスターなら、発言もスターなのである。ダウナーな曲調にオートチューン・ヴォーカルがなびく“Me”、陶酔したフューチャー・ソウルの“fallingforyou”といった辺りは、ただただThe 1975が支配する時間と空間に身を任せるばかりだ。“You”で再び沸々と上昇線を描き出し、ギター×サックスのインスト“HNSCC”でアクセントを加えながら、本編は“Menswear”、そしてシンガロングを誘う華やかなポップ・チューン“Girls”でフィニッシュである。表現力の向上のおかげでとても充実した本編ではあったが、セット・リストをご覧頂ければ分かるように、これではまだ終われない。

アンコールは、マシューのピアノ弾き語りにサックスが絡む“Is There Somebody Who Can Watch You”で始まった。途中、マシューが吹き出したりしてしまう場面もあったが、この後には昨秋に発表された新曲“Medicine”も披露された。5ピースのブライトなサウンドと、刺激的なホワイト・ライトの照明効果が手を取り合う素晴らしいパフォーマンスだ。そしてマシューが靴を脱ぎ捨ててからのクライマックスは、“Robbers”から「みんな手を高く上げて、そのまま! みんなを抱きしめて、キスして、クレイジーになっちゃえよ!」と煽りまくる“Chocolate”、トドメに“Sex”のノイジー&ラウドな一撃と、シングル曲の連打で完璧に締め括った。残響が鳴り止んだ瞬間に沸き上がる大歓声が、今回のライヴの素晴らしさを物語る。現在制作中というニュー・アルバムはもちろん楽しみだけれど、傑作を携えてまた日本を訪れてくれることを期待したい。(小池宏和)

The 1975 set list
1. The City
2. Milk
3. M.O.N.E.Y.
4. So Far (It’s Alright)
5. Talk!
6. She Way Out
7. An Encounter
8. Settle Down
9. Heart Out
10. Pressure
11. Me
12. fallingforyou
13. You
14. HNSCC
15. Menswear
16. Girls

En1. Is There Somebody Who Can Watch You
En2. Medicine
En3. Robbers
En4. Chocolate
En5. Sex
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