イエス @ TOKYO DOME CITY HALL

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前々回:2003年秋から前回の来日(2012年4月)まで8年半かかったことを考えれば、前回~今回の2年半の空白は体感時間的にはあっという間と言って差し支えないだろう。タイミング的には最新アルバム『ヘヴン&アース』を引っ提げてのジャパン・ツアーであると同時に、今回の来日公演のテーマとして掲げられていたのは、名盤『こわれもの』(1971年)と『危機』(1972年)の完全再現。昨年から今年6月にかけて『危機』と『サード・アルバム』(1971年)、『究極』(1977年)を完全再現するという趣旨の「スリー・アルバム・ツアー」を北米・南米、ヨーロッパで開催していたイエスだが、イエス不動の代表作=『こわれもの』『危機』の完全再現ということで、開演前から満場のオーディエンスの期待感も自ずと熱を帯びている。そして、スティーヴ・ハウ(G)、ジェフ・ダウンズ(Key)、クリス・スクワイア(B)、アラン・ホワイト(Dr)、ジョン・デイヴィソン(Vo)の5人が舞台に登場、あのミステリアスな音世界へと突入すると、その演奏を1音残さず堪能しようとする観客の熱視線が、会場のテンションをさらに天井知らずに高めていく――まだジャパン・ツアー日程は前半が終わったばかりだが、今回のツアーがそもそも「『こわれもの』『危機』完全再現」という性格のものであることから、以下のテキストでもセットリストおよび曲目について触れながらレポートしていくことにする(今後の公演に参加予定で曲順ネタバレを回避されたい方は、以下のレポートはツアー終了後にご覧いただければ幸いです)。

結論から言えば、実に素晴らしいアクトだった。もちろん、2012年加入・現在43歳の最新参メンバー=ジョン・デイヴィソン(43歳)を合わせても平均年齢60.6歳(最年長のスティーヴ・ハウは現在67歳だ)というラインナップだけに、40年以上前の音源にあったような性急で切迫したグルーヴ感は薄れているし、そもそも分厚いバッキングやパワー・コードで隙間をがっちり埋めた音楽が主導権を握っている今日のシーンにおいては、“危機”前半部分のアンサンブルの隙間の多さはそれ自体が異質なものとして映るのかもしれない。が、それこそが「コード・バッキング弾く余裕があったらメロディを弾く」「ドラムも含めて全員が珠玉のフレーズ・メイカー」というイエス・サウンドの在り方を如実に表していた。ボトムを支えるだけに留まらないクリス・スクワイアの「歌うベース」。ギブソンES-175D/ES-335/スタンドつきギター(アコギやシタールの音色に使用)/ペダル・スチールを駆使しながら繰り広げられる、スティーヴ・ハウのマジカルなギター・プレイ。3方向にセッティングした鍵盤を自在に操りながら、ピアノ/アナログ・シンセ/チャーチ・オルガンなど多彩な音色で極彩色の音絵巻を描き出したジェフ・ダウンズ。どっしりしたビートで豊潤なアンサンブルを支えるアラン・ホワイト。そしてジョン・デイヴィソン。前回の来日時には「初代ヴォーカル=ジョン・アンダーソンに声質はよく似ているけど少しクリーンかな?」と感じたデイヴィソンの歌声が、2年半の間にハスキーさを増していた(=よりジョン・アンダーソン寄りに変わった)ことも、「名盤再現」というコンセプトにより一層の迫力と説得力を与えていた。
イエス @ TOKYO DOME CITY HALL
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一口に「『こわれもの』『危機』完全再現ライヴ」と言っても、この2枚の作品の構成と性質はまったく異なる。「加入直後だったリック・ウェイクマン(Key)を含め5人それぞれのソロ曲+バンドで作り上げた“ラウンドアバウト”“南の空”“遥かなる思い出”“燃える朝焼け”の4曲」という形で5人の類稀なるプレイアビリティを最大限に開花させた「進歩と変化のドキュメント」的作品=『こわれもの』。そして、そのずば抜けた演奏力と緻密な構成力を、当時EL&P/キング・クリムゾン/ジェネシスらが競い合うように取り組んでいた組曲形式・大作主義的なソングライティングと重ね合わせて、約20分の表題曲含む3曲40分のアルバムへと結晶させてみせた『危機』……怒濤のスピードで極限進化を遂げながら、バンド史を代表する2枚のアルバムをたった10ヵ月のスパンで立て続けにリリース(さらに言えば、『サード・アルバム』からメンバー・チェンジを経て制作された『こわれもの』までの間はわずか8ヵ月)、70年代UKプログレッシブ・ロックと称されるシーンの中でもひときわクラシカル&メロディアスな音楽世界を確立してみせた当時のイエスの探究心と冒険精神が、“危機”“同志”“シベリアン・カートゥル”といった『危機』の高精度なアンサンブルからも、“ラウンドアバウト”のポップにして緻密な音像からもリアルに伝わってきて、改めて驚きと感激を禁じ得なかった。
イエス @ TOKYO DOME CITY HALL
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今年7月にリリースされたばかりの最新アルバム『ヘヴン&アース』からの“ビリーヴ・アゲイン”は“不思議なお話を(Wonderous Stories)”(『究極』収録)を彷彿とさせるファンタジックな多幸感に満ちていたし、アップ・テンポのビートと決然としたメロディが咲き誇った“ザ・ゲーム”は、現在のラインナップで初めてのアルバム『ヘヴン&アース』を生み出したイエスの「今」の充実感を雄弁に物語っていた。そして、“ラウンドアバウト”からライヴは後半の『こわれもの』パートへ。“ラウンドアバウト”“南の空”といったバンド・ナンバーのみならず、リック・ウェイクマンのソロ曲“キャンズ・アンド・ブラームス”(ブラームス『交響曲第4番』第3楽章をひとり多重録音したもの)をジェフ・ダウンズが律儀に再現していたり、ジョン・アンダーソンがヴォーカル・トラックを重ねて作った“天国への架け橋”をジョン・デイヴィソンがスクワイア&ハウのコーラスとともに歌い上げてみせたり……といったディテールまで「完全再現」してみせる姿からも、誰よりも5人自身がこの「『こわれもの』『危機』再現」を全力で楽しんでいることが伝わってくる。演奏曲目だけ見れば、“同志”も“燃える朝焼け”も“ラウンドアバウト”も前回のツアーで演奏してはいたものの、そのプレイには明らかに前回とは異なる躍動感が宿っている。
イエス @ TOKYO DOME CITY HALL
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4拍子のリズムの“遥かなる思い出”で5拍ごとに刻まれるスネアも、すかさずスクワイアのソロ曲“ザ・フィッシュ”の7拍子へ突入する展開も『こわれもの』そのものだし、ハウがクラシック・ギター1本で巧みに奏でる名曲“ムード・フォー・ア・デイ”がライヴ終盤の見せ場として作用するのも、この特別なステージならではの名場面だろう。そして、本編ラストを飾った“燃える朝焼け”。『こわれもの』リリース当時のキーボード奏者だったリック・ウェイクマン自身が音源から大きくフェイクしまくっていたフレーズも、ジェフ・ダウンズがきっちりアルバム通りに再現していたのも印象的だったし、10分超の精緻かつ壮麗な音風景は、この日を待ち詫びたオーディエンスを十二分に感激させるものだった。スタンディング・オベーションの中ステージを去った5人、アンコールを求める手拍子に応えて再び登場。デイヴィソン/ハウ/スクワイア/ダウンズの4声コーラスから“アイヴ・シーン・オール・グッド・ピープル”へ流れ込み、後半のロックンロール・パートでは高らかなクラップを巻き起こしてみせる(もちろんハウは前半:スペインの12弦楽器「ラウー」→後半はES-175Dに持ち替えて熱演)。「サンキュー・ソー・ベリー・ベリー・マッチ!」と満足げに語りかけるハウの言葉に応えて、大歓声が沸き返っていく。アンコールのラストに披露した、80年代トレヴァー・ラビン期のイエス最大ヒット曲“ロンリー・ハート”も、すっかりこの5人のレパートリーとして血肉化されていたし、最高の夜の終わりを熱い拍手喝采で彩っていた。ジャパン・ツアーはいよいよ後半スケジュール(27日:大阪・オリックス劇場、28日:名古屋・Zepp Nagoya、29日[追加公演]:東京・NHKホール)へ突入。次回ライヴ=27日・大阪公演は当日券も出るそうなのでぜひ。(高橋智樹)


[SET LIST]

01.危機 / Close To The Edge
02.同志 / And You And I
03.シベリアン・カートゥル / Siberian Khatru
04.ビリーヴ・アゲイン / Believe Again
05.ザ・ゲーム / The Game
06.ラウンドアバウト / Roundabout
07.キャンズ・アンド・ブラームス / Cans And Brahms
08.天国への架け橋 / We Have Heaven
09.南の空 / South Side Of The Sky
10.無益の5% / Five Per Cent For Nothing
11.遥かなる思い出 / Long Distance Runaround
12.ザ・フィッシュ / The Fish(Schindleria Praemeturus)
13.ムード・フォー・ア・デイ / Mood For A Day
14.燃える朝焼け / Heart Of The Sunrise

En1.アイヴ・シーン・オール・グッド・ピープル / I've Seen All Good People
En2.ロンリー・ハート / Owner Of A Lonely Heart
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