──3曲目の“レンズ”はEP『螺旋の街』の軸になっているリード曲だとか。真ん中にある曲ですね。都会の暮らしの中で、他者と自分を比較するうちに、もともとの目的すら見失っていく様を描いていて。“レンズ”の主人公は役者の卵、ミュージシャンを目指している人、もしかしたら地下アイドルかもしれないけど──なんらかの夢を持って上京してきた、おそらくは女性で。時間が過ぎ、なかなかうまくいかない状況で、調子よく頑張ってる知り合いの子に対して「すごいね」ではなく「そうなんだ」しか言えない。《実像 虚像》という歌詞に象徴される、肥大した自意識や世間とのズレや歪み、「何が本当の自分なのか」という感情を切り取ってみたかったんですよね。僕、アイドルのサバイバルオーディション番組とかも結構好きなんですよ。そういう番組を観てるときの気持ちだったり、SNSを眺めてるときの「みんな、いろんな気持ちで生きてるんだな」という実感だったり──もちろん自分の感情も込めてますけど。レンズは世界を切り取るもので、他者の視線を意識するきっかけになるところから、このタイトルにしました。──エレクトリックピアノのリフ、高揚感と切迫感が共存したメロディなども、曲のテーマとリンクしていて。順番としては、テーマを決めてから、メロディや歌詞を作っていくんですか?“レンズ”の場合はかなり渾然一体としてました。最初の《どこに行こうと/誰かと会おうと/決して消えないものがなんかあって》も鍵盤を弾きながら全部一緒に生まれてきて。メロディもめっちゃ考えて作ったわけではなくて、そのときにガッと出てきたんですよね。「この人が笑ってて嬉しいな」という関係がないと寄り集まることはできないし、街も生まれない
──そういう場合は、楽曲の純度も高い?それはなんとも言えないです。ガッとできたものをあとから聴いたときに、そのままで十分に鑑賞に堪えられることもあれば、ちょっとカオスな部分が残ってしまってることもあって。後者の場合は「楽曲のコアの部分はなんだっけ?」をもう一度よく考えて、修正すべき部分は修正します。別にひらめきを自慢したいわけではないし、ファーストタッチがベストかと聞かれたら、「場合によります」としか言いようがなくて。もちろん最初にできた熱さみたいなものに価値を感じれば、そこを大切にしますけどね。先ほども言いましたけど、あくまでも鑑賞に堪えるもの、自分が伝えたいことを届けられることが大事なので。──続く“箱庭ダンス”は、ゆったりとしたテンポのダンスチューン。《全てが上手くはいかなくても/ほら 踊るだけさ》というリリックが印象的でした。明るいイメージもありつつ、曲全体が深いため息みたいな感じもあって。EP全体のストーリーの中では開き直り、立ち直りの瞬間みたいなものが提示される楽曲だと思っているんです。1曲目の“シャイなボーイ”が都市への入り口だとしたら、2曲目の“春を盗んで”、3曲目の“レンズ”でグッと奥のほうに追い込まれていく。マインド的にもネガティブになって行き詰まりを感じていたところに、4曲目の“箱庭ダンス”で開き直るという。箱庭は都会の街と解釈してもらってもいいし、曲の文脈の中ではスマートフォンの中という捉え方もできるのかなと。《渦巻いた感情は/鋭く指先から飛び出して》はもしかしたらSNSに愚痴を書き込んでるのかもしれないし。──確かに! そして5曲目の“単純ないきもの”にはジャズのテイストがかなり取り込まれていますね。結果的にそうなりました。都市で暮らす人が少しずつ追い詰められて、“箱庭ダンス”での開き直りを経て、すべてを受け入れて、超越した感覚や哲学を得るというのが“単純ないきもの”なんです。曲の最後でスキャットしてるんですけど、それは喜びなんですよ。メロディからも解放されて、自由に歌っちゃうぜ!みたいな。それを表現するためにジャズがピッタリだったんだと思います。実際はそこまで考えていたわけではなくて、できてみたらこうなって、そこに意味が生まれたという言い方のほうが近いんですけどね。──伝えたいこととサウンドが自然に重なったと。《君が笑えば嬉しくなるんだ》という歌詞も芯になっていると思います。めっちゃJ-POP的なフレーズなんですけど、人間が共同体を形成するためにはすごく大事で。隣の人に対して「なんだこいつ」と思ってたら、社会なんて成り立たない。「この人が笑ってて嬉しいな」という関係がないと寄り集まることはできないし、街も生まれないと思うので。そういう根本にたどり着いたときは、自由に歌うしかないんじゃないかなと。歌詞にも《フフフフフフフ》って書いちゃってますから(笑)。
──楽曲それぞれの魅力もありますが、EP全体を曲順通りに聴くことで感じられるものもたくさんありそうですね。そうだといいなと思っています。僕自身もアルバムを通して聴くことで感動した経験があるし、アーティストが生み出せる最大の感動って、実はそこにあるんじゃないかなと勝手に思っていて。ライブはまた別軸のすごさがありますけど、作品としては1曲単位というよりも何曲かがまとまることで最大化されるんじゃないかなと。自分のことをアーティストと自認するのであれば、そこを捨て置くことはできないですね。──メジャーデビュー第1弾となる本作『螺旋の街』によって、がらりの音楽性の広さ、創作に向き合う姿勢はさらに広く伝わってくはず。今の時点では、どんなアーティストとして認知されたいと思っていますか?ちょっと迷うんですけど、まずはスタンダードナンバーを作る人、ちゃんといい曲を書く人だと思われたいです。たぶん「TikTokから出てきた」みたいな認識を持っている方もいらっしゃると思うんですけど、意外と僕の曲って、いわゆるTikTokっぽくないものが多くて。どの曲にもしっかり伝えたいことがあるし、価値のあるものだと思っているので、それを個々の人生に届けていきたいです。……まるでアーティストみたいなこと言っちゃいましたけど(笑)。──でも、それが本心ですよね。伝えたいこと、言いたいことがあるから、それを音楽にして届けるんだという強い意志がある。そうじゃないと僕がやる必要がないし、虚しいじゃないですか。曲が生まれるということは、その奥に必ず何かがあると信じているんですよ。たとえばギターをかき鳴らして、うわごとのように歌い出したとしても、そのときに発した言葉や音はその人の背景や文脈に基づいているはず。何を伝えようとして、その言葉やメロディを選んだのか。そこにあるはずのきらめきを大事にしたいんですよね。表現とは結局、そういうものだと思うので。何を伝えようとして、その言葉やメロディを選んだのか。そこにあるはずのきらめきを大事にしたい