太宰先生の世界観がどんどんドープに表現されていって、これはいいぞって(笑)(間宮)
――あの時代の作家は、エピソードに事欠きませんからね。間宮 太宰治先生が芥川龍之介先生に憧れていたとか、クスリとかの破天荒なバックグラウンドも教えてもらったんですけど、デトロイトのラッパーの話に通じるなと思ったんですよ。だったら “OD-1-HK(HUMAN LOST・かくめい / 太宰治)”はトラップだなと思って作っていったら、太宰先生の世界観がどんどんドープに表現されていって、これはいいぞって(笑)。なおかつ、(太宰先生が)影響を受けている芥川先生の“RA1-OSS(女 相聞 詩集 / 芥川龍之介)”に繋がる仕掛けもアレンジに込めました。そうやって作家さんのストーリーを音楽でも踏襲するのがすごく面白くて、最近の僕の楽しみですね。だから、バックグラウンドは必ず神尾さんから聞くようにしてます。
――言われてみれば、作家同士が仲悪くて作品でディスりあったりしてることもありますし、影響を受けてオマージュしたり、ラッパーの世界と近いかもしれないですね。
神尾 そうそう。みんな派閥作るしね。
間宮 そういうビーフ(ディスりあい)めっちゃ聞きたいです(笑)。僕は、コード進行やスケールが持っている力をある程度学んできたつもりなので、そういうものを音楽的な側面に変換して、鳴ってる音一個一個に理由をつけていってるんです。明るいコード進行にしても、この人はただ明るいだけじゃなくて、こういう人生を歩んでいるから、ちゃんと影を落とせる憂いのコード進行を入れたりだとか、自分のなかで全部理由があります。音楽は数学で割り出せるものなので、言ってしまえば全部数字なんですけど、その数字に意味を見出せるのは人間だけだと僕は思ってて。その人間らしさをいかに数字に変換してあげられるか……さらに聴き手がそこに新しい想いを乗せられるように、橋渡しのパイプをとりあえずめっちゃ計算しまくりながら作ってます。最終的には、やっぱりキャッチーに、できるだけわかりやすいようにして。で、神尾さんが「いいね!」って言ってくれたら、もうそれでオッケーです。
神尾 本当に両面から作家に向かっていくような形で作っている気がしますね。
――間宮さんといえばラウドなサウンドやヘヴィな生音っていうイメージがあるんですけど、そのあたりは?
間宮 今は、DJの活動でEDMとか打ち込みの音楽を学んできたことがめちゃくちゃ活かされてますね。でも、KATARIは音楽的にわりと何をやってもいいかなと僕は思っているので、もしかしたらこれからメタルなギターが入ってくるかもしれない。そこもやっぱり作家さんのバックボーンとかからちゃんと変換して、必要であればっていう感じです。
ライブも、お客様が「これは何?」って思うようなものにしたい。世界観を担いでぶん殴りにいきたいと思います(神尾)
――音源だけでなく、ライブという表現にも展開しているのが面白いですよね。ライブ映像を拝見すると、思った以上に即興性を感じて新鮮でした。間宮 実は、色々仕掛けをしてあって。曲の合間にも朗読が入るんですけど、神尾さんが朗読をしながら、ポチッとスイッチを押したら途切れず次の曲に繋がるようなシステムを組んでるんです。だから、前日までの準備はめちゃくちゃ大変なんですけど、当日は僕はもうただそこに立ってるだけです(笑)。
――でも、その切り替えとかはその日次第ってことですよね。
神尾 そうですね。僕は朗読するものを毎回変えているので、日によって全然違います。朗読に関しては、とてもライブ感を持ってやってますね。どうしたって、作家の並びによっては朗読のテンションも落ちるところまで落ちていって本当に辛くなるし、逆に盛り上がっていったりもしますし。
間宮 そこがライブの良さだと思います。あと、役者さんってすごいなと思うのが、ちゃんとそこに宿っているんですよね。ライブで神尾さんのほうをちらっと見たら、神尾さんの後ろになんかいる! 場面が変わるごとに違う人になってる! ってびっくりしました。僕はただ正確にビートを守りつつ、何か足せる時は鍵盤を足したり、サンプラーを叩いたりしてます。
神尾 それがKATARIにとってのセッションなので。ゆっぺくんのピアノが入ってきた瞬間に読み方が変わったり、同じものが二度と生まれないエッセンスになってますね。
――4月2日には一周年記念ライブ「KATARI独奏会『聖域-sanctuary-』」があって。
神尾 「聖域」というコンセプトなんですが、言い方を変えると「禁足地」ということで。ちょっとおどろおどろしい、ヤバい世界を作ろうと思って。
間宮 僕としては、文学を音楽にすること自体最初はタブーだと思ってたので、そのタブーに足を踏み入れてしまったっていう気持ちもあるし。一方で、たくさんの文章を残してくれた昔からの神様たちに対して感謝するとともに、活動してきた一年間を通してその神様が育ってきましたので、みなさまの前に解き放ちますという意味もあります。ぜひ喰われていってくださいっていう。
神尾 やっぱり音楽自体がほかと違うものなのであれば、ライブ自体も、お客様が「えっ、これは何?」って思うようなものにしたいので。
間宮 僕はまだまだ文学に詳しくないし、正直なところ僕自身に説得力があるとは思ってないんですよ。であれば、(ライブ中は)ちゃんと演じて、神尾さんっていう神様を起こす祈祷師になるしかないと思ってます(笑)。
――それだけのものを扱ってるんだという気合と覚悟が伝わってきますね。
神尾 そうですね。僕としては、太宰治を聴いて気分が悪くなりました、くらいのほうが嬉しかったりするので。しっかり没入感を持って観てほしいです。ライブですけど、僕は舞台だと思ってますから。
間宮 まさに舞台ですね。そこに対して、ちゃんと音楽としても、音楽をやるうえでの新しいテクノロジーとしても考えていければいいなと思ってます。いかに照明と同期させるかとか、技術的なことも試せる場だと思うので、いろいろトライしていきたいですね。