子供たちに伝えたい気もする(笑)。「大人って仕方がないんだよ。いろいろ考えたくなっちゃうんだよ」って(内田)
――内田さんにとって、人生の第一章はどんなものでしたか?内田 それは……訊かれると難しいっすね(笑)。
――メンバーから見て、出会った頃と比べて、内田さんに変化はありますか?
長谷部 僕は高校生の頃から一緒にバンドをやっていますけど、怜央は昔より詞に向き合うようになったと思います。高校の頃の怜央の作る曲は、1番と2番の歌詞が同じ曲が多くて、「なんで?」って訊くと、「面倒くせーから」って。でも、Kroiを結成してからは歌詞にすごく向き合うようになったと思う。
益田 精神性が見える歌詞が増えたよね。怜央が常々言っている「多様性を大事にしたい。解釈は人それぞれだから」っていうことも含めて、興味関心事が増えていく中で、その時々の考え方が歌詞に出ている感じがする。
内田 昔は「歌詞に意味がなければいけない」っていう様式美が最悪だと思っていたんですよ。でも音楽を続けていくうちに、自分が書く歌詞にどんどん意味がついてきてしまって……。どうしても意味が浮かんできてしまうんですよね。自分ではちょっと気持ち悪いんです。自分が嫌いだった大人に自分がなってしまっている感じがして。ただ、「そうなっていくんだよ」っていうことを、作品を通して子供たちに伝えたい気もする(笑)。「大人って仕方がないんだよ。いろいろ考えたくなっちゃうんだよ」って。
千葉 そうだよね。
内田 考えずにいられる人のほうがすごいなって思いますよ。俺は、考えずにい続けることに耐えられない。怖くなって、すぐに意味をつけちゃう。でも、それに抗うというわけじゃないですけど、歌詞を書く時、なるべく意図が伝わらないように書くんです。伝わりすぎると捉え方が限定されてしまうので、伝わらないように自分の想いを入れるっていう、謎の行動をしています(笑)。
――いや、でも、わかります。
内田 “shift command”という曲のタイトルが象徴的なんですけど、自分たちが提示するのは「シフト」キーと「コマンド」キーまでであって、その先で、あなたたちが好きなアルファベットを打ち込めばいいよっていう感じなんですよね。俺にとって、作品は聴いている人の頭の中でできあがるものなんです。なので、理想としては、作品を聴いてその人が思ったことを、その人の「正解」としてもらって、で、その正解を俺に教えてほしい(笑)。友達と話し合ってくれてもいいし、「こうなんじゃないか?」と勘繰ってくれてもいいし。いろんな正解があるのがいちばん面白いですから。
――何か特定のことを訴えかけたい、ということではない?
内田 提案みたいなことではあります。「こうしたら、もっと楽に生きられるんじゃない?」っていう。でも、それを人様に向かって「こうしたらいいですよ!」とわざわざ言うのはなんか違うなって。まあ、俺の曲は日記みたいなものだと思うんですよね。日記を書き起こすために曲を使わせていただいている感じです。
――1曲目“Balmy Life”の《混乱から逃れる術どこ?》というフレーズは、どういったところから出てきた言葉なのだと思いますか?
内田 “Balmy Life”は、コロナ禍になって、配信ライブがめちゃくちゃ多くて大渋滞していたじゃないですか。表現する人の多さで大渋滞を起こしている状況の中で、「本当に特別なものってなんなんだろう?」と思ったり。あと、そういうこと以外でも、世の中でいろんな混乱があったと思うんですけど、“Balmy Life”という場所だけは、混乱しない場所というか。混乱からの逃げ場所を作って、そこに自分を逃がそうと思ったら、この曲ができたんです。
現実逃避のためというか、生きていくための増強剤というか、そういうものだと思うんです、音楽って(内田)
――音楽に「逃げ場所」を求める感覚は、内田さんの根底にあるものですか?内田 あると思います。気づいたらそういう歌詞を書いているので。現実逃避のためというか、生きていくための増強剤というか、そういうものだと思うんです、音楽って。やっぱり面倒くさいじゃないですか、毎日仕事したり。コロナ禍になって「音楽やライブは生きることに必要のないものだ」という言われ方をすることもあったけど、俺はやっぱり、いちばん必要なのってエンタメだと思うんですよね。死ぬために生きるのであれば必要ないのかもしれないけど、そうじゃないですよね、みんな。そんなふうに生きたくなんてないじゃないですか。
――そうですね。
内田 人生を豊かにするもの……それは食事であったり、家族であったり、いろいろあると思うけど、やっぱり音楽や芸術、エンタメも、俺は人生を豊かにするものだと思うんですよね。
――今作の歌詞には「労働」をイメージさせる言葉も多いなと思いました。
内田 そうですね。僕は中学を卒業してすぐに機材を買うために高校に行きながらバイト生活をしていて、その時結構、ブラックバイトみたいな感じのこともやってきたんですけど(笑)、「世の中こういうのっていっぱいあるんだろうな。嫌だなあ」と思って。僕自身は大学を1年で辞めたんですけど、最近、同世代の周りの人たちが就活している姿を見て、大変そうだなと思うし。
――なるほど。22歳ですもんね。
内田 働くことに嫌な気持ちを抱いている人に対して、どうにかできないのかなって考えているフシはあります。別に、どうにかできると思っているわけではないけど、そういう部分は、ちゃんと見ていたいというか。音楽をやっていると、普通の感覚ではなくなっていくと思うんです。長い間音楽を第一線でやられている人の書く歌詞って、段々と現実味がなくなっていくような気もするから。もちろん、それはいい進化だと思うんですけどね。特別な場所で活動し続けてきた人にしか表現できないものはある。でも、その反面、現実から離れていく部分もあるなと思って。
――今の話もそうですけど、Kroiの音楽は、音楽的にとても華やかで快楽的でありながら、様々なことに対しての疑問符も常に抱えていますよね。今回のアルバムは、その疑問符がかなり明確に浮き彫りになっているアルバムという感じもして。
内田 それはあるかもですね。「疑う」ことは大事だなと思う。信じると、良くも悪くも視界は狭くなるじゃないですか。それによって集中はできるんだけど、周りが見えなくなって、知らないうちに何かにぶつかっちゃっていたりする。それは嫌なので、自分をちゃんと疑うことができる人になりたいです。
――話が遡ってしまいますけど、最初に名前が挙がった“夜明け”は、厚みのあるソウルフルなサウンドと、《もうじき朝が来る 正直まだ寝てない》という生活感のある歌詞のギャップが面白いですよね。
内田 ああ、それはふざけて作ったんで。
――ふざけて(笑)。
内田 ふざけることは大事ですよ。やっぱり、真面目にふざけられないとダメなんです。新しいことをする人って、大体、最初は「あいつ、ふざけてるな」と言われるんですよ。それが何年か経って「やっぱり正しかった」とか言われるわけで、マイケル・ジャクソンとか、最初はヤバいくらいふざけてるじゃないですか(笑)。でも、あれが「キング・オブ・ポップ」と呼ばれるようになる。最初に聴いて「ふざけてるな」と思われるような作品を作らないと、新しいことはきっとできないんですよね。
6月30日(水)発売の『ROCKIN'ON JAPAN』8月号にKroiが登場!