斉藤壮馬の音楽はなぜこれほど深い没入感を生むのか? 自身のルーツから新作『in bloom』までを語る!

斉藤壮馬の音楽はなぜこれほど深い没入感を生むのか? 自身のルーツから新作『in bloom』までを語る! - live_photo(photo by 能美潤一郎(Femt))live_photo(photo by 能美潤一郎(Femt))

今まででいちばんルールに縛られずに、いろんな角度から曲が書けたのがこのアルバムだと思う

──確かに新作『in bloom』にしても、聴くたびにいろいろな発見があって、様々な解釈ができる曲が多いですよね。それに、前作までと比べても、より音楽性が広がって、自由度高く多様なポップミュージックを展開しています。

前作まではエンタメという軸はありつつも、自分の世界観を反映して退廃的なモチーフというか、「世界の終わり」的なモチーフをそのまま表現している曲も多かったんです。でも2年くらいやって、ちょっとさすがにたくさん世界を終わらせすぎたかなという気持ちになりまして(笑)。じゃあ世界の終わりのその先ってどうなっていくんだろうと。その先には何かが続いていくのか、もう無になってしまうのかという着想がありまして、次に出す作品では、今まで歌ってきた世界の終わりの次の物語を歌ってみたいなと。なので、アルバム自体に大きなテーマがあるというよりは、曲ごとの短編小説集と言いますか。1stフルアルバムよりも内省的なアルバムになっているかなと思います。自分で歌詞を書いていても、ポップさは時として狂気ともなり得るというか、そういう感覚がありました。どの曲もそうなんですが、「すごくポップで聴きやすい」と言ってくださる方もいますし、「ちょっと怖い」って言う人もいて。

──いや、そうなんですよ。リード曲“carpool”も爽やかなポップスのようでありながら、じっくり歌詞を咀嚼すると不穏な感じもある。そもそも“Summerholic!”だって、超絶ハッピーなサマーチューンなんですけど、よくよく状況を理解すると、ダークファンタジー的な怖さもあって。

それはしめしめという感じです(笑)。“Summerholic!”は主人公がすごく楽しそうにしていてハッピーなのかもしれないけど、第三者的にそれを見たり聞いたりすると、客観的には入り込めない余地があるみたいなところを狙って書きました。だから他にも展開がよくわからない曲があったりもするんですけど、それはもうなんか、その主人公がそうならしょうがないなっていう。計算でやっているというより、自分でもなんでこんな展開になっちゃったんだろうなって思うんですけど、その曲がそう言っているならしょうがないかなっていう感じで。なのでエンタメということにもこだわり過ぎず、今まででいちばんルールに縛られずに、いろんな角度から曲が書けたのがこのアルバムかなと思います。

──自分内ルールにもこだわらずに作っていけた?

いやそれが(笑)。僕すごく頭でっかちだと自分でも思うんですけど、これからは感性が大事な時代だと思うからこそ、ルールにとらわれることを止めようと思って制作に入ったんですよね。ところが、その「ルールにとらわれるのを止めよう」という思考自体が、すでにルールにとらわれているというか(笑)。でも基本的には曲作りそのものも僕にとってはエンターテインメントで、楽しんで作らせてもらいました。このアルバムの前に3曲、デジタルで配信させていただいたんですが、それもあって、シングルからアルバムまで地続きの制作期間をいただいて、この1年はずっと、声優業の軸とは別に、楽曲のことを考える楽しみもあって。ただ、前回よりはすごく暗めなアルバムというか(笑)。

いわゆるJ-POP的なフォーマット以外の、もっと脳のバルブを解放したようなことも躊躇せずにやっていきたいと思った

──暗いですかね。でも確かに内省的なアルバムかもしれません。そもそも“ペトリコール”からして、ずっと雨音のSEが使われていたり、ともすれば狂気とも受け取れる描写で。

今回は明確な意図として、もうちょっとディープな曲をやっていこうという思いがありました。“ペトリコール”のサックスのリフは、最初僕がギターで弾いていたものをアレンジャーのSakuさんに、「これをサックスでリフにしてほしい」とお願いして。調性からするとあれは不協和音になっているんですが、そこはロックというよりはジャズ的な捉え方で。メジャーキーなのかマイナーキーなのかわかりづらい、そういう展開も後半にあって、いわゆるJ-POP的なフォーマット以外の、もっと脳のバルブを解放したようなことも躊躇せずにやっていきたいなと思ったんですよね。“ペトリコール”は結構スルメ曲と言いますか、派手な曲ではないと思うんですけど、でも結果的には自分でも良い曲ができたと思います。

──“キッチン”も、穏やかさと怖さとが同居した曲というか。日常の風景からいきなり世界に思考が飛ぶ感じとか。戻って来られないような危うさが漂って。

やばい曲ですよね(笑)。“キッチン”は自粛期間で家にいる時間が長くなったことによって、1stフルアルバムの時はあえて曲にしようとは思っていなかったモチーフを使ってみようと。だから今年ならではの楽曲でもあります。

──そんな中で、少し意外なほどの青春感を感じたのが“BOOKMARK”という曲でした。「J」とクレジットされた方のラップがフィーチャーされていて。

謎の友人Jですね(笑)。歌詞としては、オールをした明け方の朝4時というか、学生時代のなんでもない怠惰な日常って青春だよね、でもほろ苦さもあって、みたいな、自分としては珍しく学生時代を思い出しながら書いたリリックで。曲自体は80年代っぽい感じなんですけど、聴いた方が自分のいつかの青春、あるいは未来の青春を想起してくれたら嬉しいなって思います。結構素直な歌詞なので、正直ちょっと恥ずかしいんですけど、でも青春ってそういうものなので(笑)。

──The Floristによるバンドサウンドで作りあげられた“いさな”のシューゲイザー感もとても素晴らしくて、内省的という意味では、この楽曲はもうひとつのリード曲と言ってもいいんじゃないかと思うくらい、アルバムを感覚的に理解する楽曲だと思います。

ありがとうございます。“いさな”はほんと素敵なアレンジに仕上げていただいて、このアルバムの中では総括的な曲になりました。今回は、前作で表現した「世界の終わり」というテーマから、さらにその先というイメージでしたが、この曲は前作のテーマに深く繋がる曲ですね。本質的にはアルバムのラストトラック的なイメージで。まさかの8分超えという(笑)。ライブで演る機会があれば、これはほんとに空間系のエフェクトを駆使してやりたい曲です。

──ライブのハイライトにもなりそうな曲ですよね。来年4月から5月にかけてライブツアーを行うことも決まりましたし。

そうなんです。最初にお話ししたように、もともとはそれほどライブに興味はなかったんですが、以前ファーストライブをバンド編成でやらせていただいた時に、すごく楽しくて、これは病み付きになるなと(笑)。その時の思いがそれ以降の曲作りにも反映されてきましたし。ただ今絶賛仕込み中なので、もうしばらくお待ちいただけたらと思っています。

次のページMV・リリース情報・ライブ情報
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする
音楽WEBメディア rockin’on.com
邦楽誌 ROCKIN’ON JAPAN
洋楽誌 rockin’on