ナノ、新曲“KEMURIKUSA”インタビュー。戦うように歌い続ける姿、その胸中を語る

海外で苦労せずにCDが手に入るようになるというのが、自分の目標です。これからもどんどん発信をして、たくさんの人を巻き込んでいきたいですね


――ナノさんがJ-POPを好きになったきっかけも、日本のアニメでしたよね?

「はい。アニメって、いろんな人にとって大きいものなんだなというのを、最近、改めて感じています。アニメから元気をもらった体験は、子供だけじゃなくて大人にもたくさんあるでしょうからね。現実の中ではなかなか見つけられない答え、勇気、元気だったりが、アニメの中には詰まっていますから、すばらしい文化、芸術のひとつだと思います」

――アメリカのアニメと日本のアニメの違いに関して、何か感じていることはあります?

「日本のアニメは日常に入り込んでくるところが大きい気がします。アメリカのアニメは壮大でファンタジー、夢の世界のものが多いんですよね。日本のアニメは、日常の話が多いように思います。そういう日常の中にファンタジーの要素が入っているから、幅広い人たちが共感できるのかもしれないですね」

――日本とアメリカで完全に傾向が分かれるわけでもないですけど、たしかにアメリカの作品のほうがファンタジーの要素が強いのかも。

「あり得ないストーリーを魅力的に描くのが、アメリカのアニメーションには多いですからね。それに対して日本は、実写で制作してもあり得るストーリーのものが多い気がします」

――例えば『ドラえもん』はファンタジーですけど、舞台は普通の日本の町と小学生の日常ですからね。

「そうですよね。出てくるキャラクターも、同級生と重ねられるような子たちですし。そういうファンタジーと日常の配合、コラボレーションが、日本のアニメにはあるんですよ。『しっくりくるけど、よく考えてみるとあり得ない』っていう感じですから」

――日本のアニメに日常の要素が色濃く出ている理由って何だと思います?

「日本人の性格、文化的なものなのかもしれないですよ。日本人は『大きく! 大きく!』って広げるよりも、『親しみやすさ』とか『ぬくもり』を大事にする社会だと自分は思っているんです。だからかもしれないですね。そういう日本のアニメは、海外の人にとっても魅力的なんだと思います」

――アニメを通じてナノさんの音楽が好きになる海外のリスナーも、どんどん増えていますよね?

「はい。海外で日本のものを発信する方法として、やっぱりアニメは大きくて強いんです。海外のファンは、ほとんどがアニメがきっかけでナノを知った方々です」

――昨年の11月にニューヨークのイベント(「Anisong World Matsuri at Anime NYC 2018」)に出演しましたが、何か感じました?

「アニメの曲でナノを知ったみなさんは、オリジナルアルバムのいろんな曲も聴いてくださっているんです。それが、すごく嬉しかったです。そういうみなさんのためにも海外で苦労せずにCDが手に入るようになるというのが、自分の目標です。これからもどんどん発信をして、たくさんの人を巻き込んでいきたいですね」

――“KEMURIKUSA”も『ケムリクサ』のオープニングテーマですから、海外のみなさんからの注目度も高いはずです。

「YouTubeにアップロードしたMVへのコメントは、驚くほど海外からのものが多いんですよ。英語が多くて、びっくりしました。意識的に『海外の人にも伝えないと!』って思わなくても自然と伝わる時代になっているんですね」

――ナノさんの音楽は、描いているテーマも普遍的なものが多いですからね。今作のカップリングの“Spiral Eye”は、ネットの世界の中で飛び交うネガティブな感情について描いていますけど、これも幅広い人々にリアルなものとして受け止められる内容だと思います。

「現代社会では切っても切れない世界がネットですけど、目に見えない不確かなものに左右されるのって、不思議だなと思うんです。でも、どんなにバーチャルな世界が主流となっても、人間と人間の関係は変わらない部分があると思うんですよね」

人間関係ってすごく難しいですけど、それをどんどんひもといていくのが好きなんです。自分は人がいないと生きていけない人間だなと、とことん思っています


――人間同士のリアルなコミュニケーションのかけがえのなさは、例えばライブのステージ上でも強く感じるんじゃないですか?

「まさにそうですね。この時代だからこそ、その大切さを感じています。生身の体でステージに立つ人間の音楽を生身のお客さんが聴きに来ているわけですから。いつかライブの形というものも変わるのかもしれないですけど、今やっているこういうライブの大切さを毎回噛み締めなきゃいけないなと思っています」

――テクノロジーの発達によって、新しいライブの形が生まれる可能性っていうのもあるんでしょうね。

「人間の感覚って、時代と共に変わっていくものもありますからね。時代と共に失われていく感覚もあるんだと思います。それを悪いこととして捉えるのではなくて、プラスに考えるほうが自分は好きです。『今はこれができるから、何がもっとできるのか?』というポジティブな考え方をしたいです」

――“Spiral Eye”を聴いて味わえる昂揚感も、シンセサイザーがなかった時代には体験できなかったものですよね。

「そうですね。デジタル楽器は自然にはない音なので、人間にはもともとなかった感覚を刺激してくれるんだと思うんです。だから『不自然』なんですけど、そういうものからも刺激やアイディアをもらうことはできるんですよ。こういうものによって切り拓かれていくものがあるのも、現代的なものの良さだと自分は思っています」

――“Spiral Eye”は、聴いているとシンプルに楽しくなる曲であるのも魅力です。

「体を動かしたくなる楽しい曲ですからね。ライブでも楽しく歌えると思います」

――ラップもかっこいいです。ラップはもともとお好きだったんですか?

「こういう要素は、完全にWEST GROUNDの作る曲から出てきたものですね。自分にはもともとなかったものが広がっていくのも、とても楽しんでいます」

――クリエイターのみなさんと感性を交わし合って可能性を広げていくのも、まさに生身同士のコミュニケーションですよね。ナノさんにとって、やはりそれはとても大切なものということではないでしょうか。

「その通りだと思います。人間が大好きですし。人間関係ってすごく難しいですけど、それをどんどんひもといていくのが好きなんです。自分は人がいないと生きていけない人間だなと、とことん思っています。ひとりの時間は多いんですけど、寂しがり屋ですから(笑)」

――(笑)意外です。

「そうですか? でも、寂しくなると照れくさいんで、そういうのをわかりづらくしているんですけど。寂しい時に、どうでもいいメールをスタッフさんやマネージャーさんに送ったりしています。『これの確認なんだけど』っていうメールが、実はただ寂しいだけだったりするんです(笑)。それで一言返信があったりするだけで元気をもらっています」

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