
今年3月、リアルタイムの洋楽シーンと共振するセンスを武器に、『Glowing Red On The Shore EP』で鮮烈なデビューを果たしたThe fin.。それ以降、彼らを取り巻く環境は一変した。上京や初めてのツアー、フェス出演などを通して新しい世界に触れた4人。そんな目まぐるしい日々の中で生まれたのが、いよいよリリースされたファーストフルアルバム『Days With Uncertainty』である。
「Uncertainty」=「不確実性」とともにある日々。それをポジティヴに捉えながら、音楽的には格段の深化を遂げたこのアルバムは、The fin.というバンドの特異性を改めて浮き彫りにする。現在の邦楽ロックシーンにおいては何者にも似ていない存在であるにもかかわらず、じつはもっともリアルに世代や時代の空気を感じ取り音楽に投影するバンド、それがThe fin.だ。メンバー全員で、この半年あまりのあいだに訪れた変化と、このアルバムに込めたものを語ってもらった。
最初ドリーム・ポップだとかって言われてて。その辺から脱出しようというのは自分たちの中にもあったから、それがちょっとずつ現れたかな
──EP(『Glowing Red On The Shore EP』)の曲作ってた時と比べて、やりたいことっていうのは変わってきた?
Yuto Uchino(Vo・Syn) 「聴く音楽もやっぱり少しずつ変わってるし、あとEPの時は、ほんまにバンドで初めてオリジナルソングを作った、その1曲目から6曲目までを集めた感じだったんですけど、そこからはやっぱり自分たちの、新しいモードに突入しようみたいなのがあったんで。最初結構ドリーム・ポップだとかって言われてたんですけど、少しずつその辺から脱出しようというか、そういうんは自分たちの中にもあって。それがちょっとずつ現れたかなあって思ってます」
──具体的に最近こういう音楽が好きっていうのはある?
Uchino 「今日聴いてたのは、Les Sinsっていう、Toro Y Moiが最近違うプロジェクトを始めたやつ。もうちょっとダンス・ミュージック寄りで、ハウスとかああいうエッセンスを入れてるのを今日聴いてて。最近ロンドンの音楽が面白いなと思うんですよ。もうちょい前だったらアメリカのインディシーンが面白いなと思ってたんですけど、最近またロンドンかなと思ってて。Real Liesっていう3人組もハウスから派生したみたいな、ハウスをかみ砕いてるみたいな感じで。あとYears & Yearsっていうバンドも、Disclosureとかの流れをバンドにしたみたいな。そういうのが最近結構好き。そういうビート・ミュージック的なほうに行ってるかな」
──このアルバムとはまた違う方向性だね。
Uchino 「たぶんこのアルバムより先に行ってるんやと思います、俺の耳が。このアルバムは、R&Bとか、落ち着いた中に歌がどしっと入ってるっていうのは結構意識してて。だから歌のフィーリングは、そういう要素が強いんかなあ。あとドラムのビートとかもたまにそういうのを参考にしたり。っていうのは結構アプローチとしてとってたかな」
──なるほどね。アルバムできあがって聴いてみての感想をひとりずつ訊こうかな。Nakazawaくんどうですか?
Kaoru Nakazawa(Dr) 「そうですね……じゃ、とりあえずパスで(笑)」
──ははは! はえーよ、パスが(笑)。じゃあRyosukeくん。
Ryosuke Odagaki(G) 「"Night Time"とか"Without Excuse"とかは結構前からやっとった曲で。EP出した時にはもうライヴでもやってた。で、どうやって1st作るかみたいな、たまに話したりするじゃないですか。そこでやっぱり次の段階に行きたいなみたいなんが結構あって、それが後半作った曲でできたんかなっていう。もとからあった俺らの良さも残しつつ、次のステップにも行けたかなっていう対する手応えはありましたね」
──Taguchiくんは?
Takayasu Taguchi(B) 「新しく1stで作った曲は、わりとYutoのこういうふうにしたいみたいな世界観がきちっとあって、何となくそのニュアンスを受け取って解釈して、僕は取り組んでいったんですよね。音数を少なく、どんだけビートを出せるかっていう部分で、すごい良くできたんちゃうかな」
──よし、じゃあ2周目だ。
Nakazawa 「アルバムができたことに対してですよね」
──そう。自分で聴いてみての感想でもいいんだけど。
Nakazawa 「そうすねえ、とりあえず1枚作品ができたっていうことは、すげーやったなって感じはありますし」
全員 「ははははははは」
Nakazawa 「でもこの1枚ができたってことに対して、できた!みたいな感覚が、たぶん俺が一番弱いと思うんすよ。一番最初にドラムだけ録って、もうそのあとはほんまにノータッチやから、ほとんど。たまたまちょっと遊びに行った時にふらっと聴いたり――」
Uchino 「(笑)」
Nakazawa 「するぐらいやったから。できたなっていう気持ちはあるんすけど、それよりも、このできた曲をちゃんと自分の中で理解して昇華して曲に反映させてっていうことを今一番考えてますね(笑)」
──(笑)。僕の聴いた感想としては、すごくコンセプチュアルというか、トータル・デザインがすごくよくできているなっていう感じがしたんだよね。Yutoくんの中に最終的なイメージっていうのは、はっきりとあったの?
Uchino 「EPを作った時に――EP、最初俺ら作るつもりなかったんで、やっぱ集めた曲みたいな感じやって。すごいあれは俺も好きなんですけど、やっぱり1stアルバムを作るってなると、それじゃダメやなっていうのはずっと思ってたんすよ。シングル曲とほかの曲だけ集まったアルバムみたいなんにはしたくなくて。やっぱりちゃんとアルバムとして、1枚を通して聴いてちゃんと成り立つっていうか、1曲1曲が役割を担ってるみたいなアルバムに仕上げたいって思ってて。そういうことをずっと思いながら生活してるうちに、最近のその生活の感じをそのままテーマにしようってなって。だから『これはこうしよ』っていうよりは、自分が自然と作ってたもんを1個1個手繰り寄せていって、それでまた新しいものができていって、まとめた時にうまくまとまったっていう感じですね」
明日良くなっていくかもしれんし、悪くなっていくかもしれない。でも、そういうのが若さなんかなって、ポジティヴに受けとめるようになった
──このアルバムを聴いて浮かんでくるイメージっていうのは、単純な言葉にすると、たとえば昼間よりは夜だし――。
Uchino 「そうですね」
──アッパーというよりはダウナーっていう感じじゃないですか。
Uchino 「うん」
──で、タイトルが『Days With Uncertainty』っていう――「Uncertainty」ってどう訳せばいいんだ?
Uchino 「まあ『不確実性』みたいな」
──不確実性か。それってどういう気分だったの?
Uchino 「それは結構みんなにもあることやと思うんすけど、別に何も決まってないし、何か約束があるわけでもないじゃないすか。明日どうなるかもわからんし、良くなっていくかもしれんし、悪くなっていくかもしれないみたいな。でも、そういうのが今の俺らの若さなんかなって、結構ポジティヴに受けとめるようになったんですよね。たとえば俺らEP作って、インターネットに音楽を上げてってやったわけですけど、それでまさかこうなるとはっていう気持ちはやっぱりあって。俺、ほんまに何の疑いもなく自分はミュージシャンになるって思ってたんすけど、ほんまにそうなっていくと、まさかあれがこんなことになるとはな、みたいな。やっぱり変わっていったんですよね。自分の周りの自分たちを見る目が変わって、気づいたら自分も少しずつ変わっていって。で、いったい自分はどこにいたんやろうとか。すべてが新しくて、パンッてほっぽりだされたみたいな気分になるっていうか。この4人はいつもいるけど、その4人自体もいろんなふうに変わっていってて、その中で自分っていうのはどこにいるんやろうとか」
──うん。
Uchino 「それでこれからどうなるんやろとか、すごい否定的になる時もあったし、バンドが進むことに対して。そうやって音楽を通して人とかかわっていくことに対してすごいネガティヴな、自分たちじゃなくなっていくみたいなイメージを持った時もあったし。でもそういうのとうまいこと接していくのもやっぱり必要やし。不安定やったんすよ、すごい。でもそれがポジティヴに収まってきたというか。これが若いってことやし、だったら失敗してもいいや、次があるしみたいな、そういうすげーぐしゃぐしゃの波の中を泳いでるみたいな感じのテンションになって。で、そういうのを思ってた時に、こういう言葉を見つけたんですよ。最近の自分たちの感じはこれちゃうかなっていうのがあってこのタイトルにしようと思ったんですよ」
──じゃ、これはYutoくんの中ではある種ポジティヴな結論なんだ。
Uchino 「そうですね、すごいポジティヴ。別にアッパーなわけでもないし、でも元気がないわけでもないんすよ。すごい普通、ニュートラルな良さみたいな。最近音楽を聴いてると、日常に寄り添ったテンション感っていうか、そういうものを自分は必要としてるんかなっていうのがあって。普通に部屋にいながらめっちゃガンガンの音楽は聴かないじゃないすか。自分の気持ちに合ったものを自分で選んで自然と流してて、BPMも落ち着いてきて、ある一定のところに。だから自分って今こういうテンションで生きてるんやなみたいな、だったらそういう生活と近いっていうか、すごいニュートラルなとこで表現するっていうのも面白いんかなっていう感じでやってました。ビートとビートの間の、何も音が鳴ってないリヴァーブだけの部分とかがすごい最近好きで」
──残響音みたいな?
Uchino 「そうすね、キックからスネアの間の何も鳴ってない部分っていうか、リヴァーブだけの部分とか、ほんまに聴いたら一瞬なんすけど、その息遣いみたいなものが自分の生活のリズムを作ってるっていうか。そういうところを表現したいなって思ってて。だから、さっきタグ(Taguchi)が言ってたように音数をあまり増やしたくないっていうのは、音を入れすぎていくとやっぱり消えていくじゃないすか、空間っていうのは。でもパッて朝起きてヒュッて聴く音って、やっぱ空間がいっぱいあって、その中でいくつかの音が鳴ってるから心地良いんですよ。それを表現したかったっていうのもあって。だからここでこんだけ音入れすぎるとギターのタッチが出ないなとか、それやったらもっと抜いて、そのギターのリヴァーブ音をほかの楽器に混じらずにピュアに残せるアレンジを選ぼうとか」
──それって難しいじゃん。
Uchino 「すごい難しいすね。すごい難しいです。だから――難しいすね(笑)」
全員 「ははははは」
──結構苦労したの? レコーディング。
Uchino 「苦労しましたね。俺、絵を観に行くのが好きなんですけど、絵を観に行ってていろいろ思うのが、たとえばピカソとか、もっと抽象的なドガとか、ああいう人たちって、ほんとはめっちゃ絵うまい人たちなんですよね。小っちゃい時にデッサンをマスターしてるみたいな。それで何でああいう絵を描いたかは俺もわからないんすけど(笑)、俺の解釈では、たぶん線って減っていくんすよ、うまくなれば。たとえば俺なんか絵が下手やからいっぱい線を描いていかないとそのものになんないですよ。でも熟練していくと、どの線が必要でどの線が不必要かっていうのがわかってきて、1本の線ですごい役割を持たせられるように画家はなっていくんじゃないかなって思って。それは音楽に喩えてもそうなのかなっていう意識が自分の中にあって。だからミックスする時もそういう考えのもとやっていったんですよ。それがすごいやっぱり難しいというか。音をいっぱい入れるとにぎやかになるし、音圧も増していくから結構簡単なんすよね。正直ひとつの音がクオリティがわるくても重なっていって、結局別にそれは気にならなくなったりするし。でもそれを少ない線で表そうとしたら、その少ない線のクオリティがすごい重要になってくるから。ひとつひとつのテイクのクオリティとかがほんまにそのまま表れてくるみたいな。1個1個がすごく重くなって、要求するレベルもやっぱり高くなるっていう。ヴォーカルも少ない音の中で鳴ってるんで、どうリズムをはめるかとか、楽しみながらですけど、難しいとこでもありましたね」
Odagaki 「アルバム作るってなって、『どうする?』みたいな感じで、で、歌詞ってYutoが書いてくれてるんすけど――これ俺の好きなバンドの人が言ってたんすけど、その人らも幼なじみでやってて、ヴォーカルが歌詞を書いていて。で、バンドっていうのは、その周りを惑星みたいに回ってる、そういうふうに物事を見てるんだって言ってたんです。で、俺らも幼なじみやからそれに近いものがあるんですよ。だから『今日こういうことがあって俺はこう思った』っていうのを俺らはずっと昔からしゃべってきてて、その延長線で俺らの今をアルバムにするみたいな感じもあって。実際Yutoに近いことを自分が思ってるみたいなこともあったし。そのフィーリングを共有しながら曲を作るのが大事なんかなあって俺は結構思ってて。EPの時よりはそこに焦点が当たったというか。今俺らがどう思ってて、それがどう楽曲になっていくんかみたいなんが楽しみでもあったし、歌詞を見た時に『これはあん時言ってたああいう気分を歌ってんのやろな』って想像するっていう(笑)。よくYutoは日常の延長線でって言ってるんですけど、俺たち4人がいろんなとこでいろんなことを一緒に感じた――その延長線にあって、それを共有しながら作れたんかなあとは俺は思ってた。あんまり言ってないすけど(笑)」
Uchino 「初耳」
全員 「ははははは」
Uchino 「その歌詞の話で言うと、小学校6年生の時に俺たちは急に『語ろうや』と」
Odagaki 「ははははは」
Uchino 「『語ろうや』っていうのが口グセのようになってたんですよ」
──小6で?(笑)。
Uchino 「小6で(笑)」
Odagaki 「小6でクラス一緒だったんすよ」
Uchino 「で、世間話しようやみたいな」
Odagaki 「世間話が流行って(笑)」
Uchino 「そう、世間話しようっていうのが流行って。学校、棟がふたつあったんすよ、A棟、B棟的な感じで。そこの棟を結ぶ渡り廊下があって、6年生は4階なんすね。一番上なんで、その渡り廊下が屋上になってるんすよ」
Odagaki 「屋根がない」
Uchino 「屋根がないんすよ。で、そこを俺たちは、渡り廊下、略してワタローって呼んでたんすけど、『ワタロー行こうや』と。で、ワタロー行ったら語るみたいな(笑)。そこってほんとは入っちゃダメやったんすよ、休み時間はほんまはダメやってん、危ないから。でもダメなとこに行って、俺たちしかいないとこでそういう話をするっていうのが結構楽しくて。怒られたりとかもしてたんすけど、それもまあいいかみたいな」
──青春だなあ(笑)。
Uchino 「だからそんぐらいの時からいろんなことを話すっていうか、自分が思ってることを話して――別にオチもないし、結局何が伝えたいとかもない話もいっぱいあるんすけど、そういうのでお互いを認識し合ってるみたいな。お互いの位置がわかるし、話してて『自分ってこんなこと思ってたんや』ってわかることもあったりとか、そういう……めっちゃ硬く言うと情報交換みたいな(笑)、最近俺こんな感じで生きてんのやけどみたいな。そのクセが残ってて、ずっと。今でもたまに『どうなの? 最近』っていう。そういうのをやりとりしてるんで、歌詞書いてる時も『あ、これたぶんバレるな』とかがあるんすよ。で、俺は結構シャイやから、ちょっとね、バレないようにしてみたりとか(笑)」
Odagaki 「(笑)なんか同じ波に乗ってんのやなみたいな感じはある。誰かが落ちとったら知らん間に俺らも落ちてるし、それで一緒にどっかに行こうとしてんのやなみたいなんがあって。だからそこの波をもうちょいよく見てみようみたいな感じはあったかな、俺的には。『これってあの時のこと?』って訊くわけではないけど、『そうなんやろな』って思うし――」
Uchino 「なんかわかってるんかなみたいなんは、ちょっと感じる」
Odagaki 「それに対して、俺は最近こう思ってるでって――やっぱそういうのってあんのやなみたいな。実際俺たちがミュージシャンとして生活しだしたってとこにも、それって関係するし。4人の結びつきがより明確に浮かび上がってきたみたいなとこも若干あるんかなって思ってたり。そういうのの延長線で取り組めたっていうか、アルバムができたんは良かったかなあって」