今年のサマソニで、破滅的なパフォーマンスから一転、エレクトロニック・アーティストとしての先鋭性と従来の持ち味が奇跡的に共存するという驚きのパフォーマンスを見せていたが、まさかこんな境地に辿り着くとは! カナダが生んだ異端児中の異端児、堂々の3作目である。
そもそもクリスタル・キャッスルズは、インディ勢のなかで図抜けた存在感を放ちながらも、コア向けすぎるサウンドゆえに、近年のインディ・ポップ・ブームのなかで無駄に持ち上げられることがほとんどなかったバンドである。それは裏を返せば、記号性という名のもとに引っ張り出すには彼女たちはあまりにも異端だったということだ。こうしたデュオが辿るのは、カルト化orどメジャー化のどちらかである場合が多いが、この『(Ⅲ)』に貫かれるのは、サウンドこそ違うがそれこそビーチ・ハウスが『ブルーム』で、ダーティー・プロジェクターズが『ビッテ・オルカ』で見せたような、商業性の一歩手前でストップをかけた世界観だ。未完成ながら、滴るようなレア感の残るポップ・アートなのだ。
一聴して、メロディ云々というよりもトラックの浮遊感とビートの正統性で耳を捕えるサウンドメイクは、じつはイーサンがテープを使ってレコーディングしたそうで、加えて、すべて一発録り。シンセやキーボードなどの機材を徹底的に見直し、コンピューターは導入していないという。ジャケ写はイエメンの反体制デモで負傷した身内を抱く女性の写真が元になっている。絶望を歌う殺伐としたアリスの歌と詞が、これまでの攻撃性とは違った落ち着いた眼差しで寄り添っている。 (羽鳥麻美)
滴り落ちて咲く、ポップ・アートの新基準
クリスタル・キャッスルズ『(III)』
2012年12月05日発売
2012年12月05日発売
ALBUM