レッチリは家族になった

レッド・ホット・チリ・ペッパーズ『アイム・ウィズ・ユー』
2011年08月31日発売
ALBUM
レッド・ホット・チリ・ペッパーズ アイム・ウィズ・ユー
ヒレル・スロヴァク、ジョン・フルシアンテ、デイヴ・ナヴァロ、そしてまたジョン――と、レッチリはギタリストが替わるごとに大きな変化と向き合ってきたバンドである。だから、若い新ギタリスト・ジョシュの加入が何をもたらすのか。このアルバムの最大のトピックはその一点だった。結論から言えば、フリーのベースとカウベル、そしてアンソニー節のスロウなメロが立っていたシングル曲“レイン・ダンス・マギーの冒険”がそうだったように、ギターの個性でぐいぐい先導するような曲はアルバムでもほぼない。しかし、ファンク、ロック、ポップにディスコまで曲ごとのヴァラエティを広げた今作の中で、彼が弾くソロも、リフも、柔らかなアルペジオも、確かに血を分けたバンドの「家族」として温かく受け入れられている手応えがある。アンソニーが愛息を持ったこととも重なるが、家族を持つとは、「もう簡単に死ぬわけにはいかない」ということである。これまで、レッチリの歴史を濃く彩ってきたのは、「明日死ぬかもしれない」とか「明日死んでも構わない」というギリギリのロック哲学だった。しかし、20歳近くも離れたジョシュを受け入れる上で、彼らはやはり本質的に変わったのである。これは実は、これまでのギタリスト交代劇よりも、ひょっとしたら大きな変化かもしれない。そして、珠玉のソングライティングと、世界最強のバンドシップに裏打ちされた14曲が、こういうロックの逞しさもあるのだということを、実に伸び伸びと歌いかけてくる。いいアルバムだ。(松村耕太朗)


日常に寄り添ったアルバム

肩から力の抜けた穏やかな作品である。ボーカルも演奏も、限界ギリギリに頑張るのではなく、6割ぐらいの力加減でやっている。だから聴く側も必要以上に気張ることなく、リラックスして接することができる。『母乳』や『ブラッド・シュガー~』の張り詰めた緊張感や強烈なパワーの爆発は、いまもすごいものがあるけど、聴く側にもそれ相応の気合いというか、エネルギーが求められる。彼らも、それに応えたファンも若かったからこそ成立した作品だった。きっと今の彼らは、かつてのようにハードでラウドでインパクトの強い演奏で圧倒する「すごい作品」で、神棚に祭り上げられてしまうよりも、つい手にとって何度も聴きたくなるような、そんな「愛される作品」を作りたかったのだろう。
いろいろ新機軸の音楽性を展開しているが、これ見よがしに技術や知識をひけらかすような気負いがまるでなく、ただリラックスして自分たちのなかにあるものを素直に出しただけ、という印象だ。表面的な目新しさが狙いなのではなく、ただ楽曲の求める方向に寄り添っていったら、こうなっただけなのだろう。だから問われるのは楽曲の質だが、その点、2枚組でやや散漫だった前作と比べても、楽曲の粒は断然揃っている。
もちろん、そんな彼らを「ゆるみ過ぎ」と感じる聴き手も多いと思う。だが彼らは自己の生命曲線に無理やり逆らうよりも、そのつどの自分に忠実な作品で、彼らとともに歩み、年齢を重ねた長年のファンと添い遂げようとしている。それもまた、立派なプロのあり方だ。(小野島大)
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