次々と新人バンドが登場する百花繚乱のUKシーンだが、このザ・ラスカルズはすでにかなりのシード権を獲得している存在。なにせ、バンドを率いるマイルズ・ケインは先日デビュー・アルバムがリリースされたばかりのラスト・シャドウ・パペッツでアレックス・ターナーとタッグを組んでいた男である。アレックスとは同郷・同世代の気心の知れた友人であり、尊敬しあうシンガー・ソングライター同士でもある彼。今のUKには“ポスト・アークティック・モンキーズ”を狙うバンドは山のようにいるが、まず彼らが本命と言っていいだろう。闇を切り取る詩人としての才能、メロディを紡ぐ歌い手としての底力、ロックンロールを自在に転がしサイケデリックに花開かせるアイディアとセンス。全てが第一級である。
もともとはフジにも来日した経験もあるデルタソニックの5人組=ザ・リトル・フレイムスとして活動していたマイルズだが、バンドは07年に解散。そこから3人が残る形で結成されたのが、このザ・ラスカルズだ。もともとスタジオの空き時間にトリオとして演奏していたものが、どんどんメインのアウトプットとして存在感が大きくなってきた――というのがその経緯らしい。確かにマイルズの歌声のセクシーな表現力は何故今までボーカリストとして活動してこなかったのか疑うほどだし、バンド・アンサンブルの骨組みも比べれば格段に逞しくダイナミックになっている。何より、アルバムには、迸るようなエモーションの奔流が刻み込まれている。今年のフジ・ロックでも来日を果たした彼ら。本命の侵攻が始まる。(柴那典)