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言葉が音に呑まれることなく、いつになくストレートに飛び込んでくる。英語を用いずに洋楽的な聴き心地をもって歌を届けることに長けている塩塚モエカの歌唱が、今作においては童謡のように一音一音しっかり発音することで奥行きのあるサウンドスケープを脳裏に焼きつけながら、しっとりとした耳触りと後味を残す。それがとにかく心地よくて、寝る前に聴き始めるとかえって覚醒してしまうような中毒性すら孕んでいる。映画『かくしごと』の主題歌として書き下ろされた今作は透明感溢れるバンドアンサンブルも非常に素晴らしく、初めて取り入れたというチェロが映画で描かれる嘘偽りの親子の絆、新しい愛の輪郭を優しくなぞるように楽曲全体を解きほぐす。アルバム『our hope』以降明確に描かれてきた絶望の先にある希望の光は今、単に我々リスナーを包み込むためのものではない。羊文学そのものを優しく照らし出していて、いつしかその光を追い求めてしまっている。肉体以上にその奥に宿る「心」を突き動かす歌だ。(橋本創)(『ROCKIN'ON JAPAN』2024年5月号より抜粋)
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