恋する者たちの心情をまっすぐに射抜いた彼女のリリックは、今作でその鋭さをさらに増している。恋人との別れを残酷なまでに淡々と描いた“最後の行ってきます”。車の運転を渋る恋人に《君を死なせたくないって言うけどさ／あたしもあんたと死ぬ気はさらさらないよ》という凄みの利いた本音を打ち明ける“ペーパードライバー”。特筆すべきは、“真っ赤な爪と牛乳”における《いつでも可愛くしてるから／早く帰ってきてね》という言葉に託されたあまりにも深い情念だ。どの楽曲も、すべてのパラメータをポップさに振り切ったような甘いメロディを誇っているが、そこで描かれるのは深く胸を締めつける切実な恋愛模様の数々であり（飼い猫への愛を爆発させた“にゃんにゃんにゃん”を除く）、それ故に今作は、まるで何十本もの恋愛観察バラエティや恋愛リアリティショーを一気に観たかのような重い味わいをもたらす。それでも、私たちは恋愛をやめられない。今作を締め括る“♡人生♡”は、まるで恋愛という闘いの日々を駆け抜ける者たちへ向けた応援歌のように響いていて、その晴れやかさに心を救われる。（松本侃士）

（『ROCKIN'ON JAPAN』2023年5月号より抜粋）

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