異端にして孤高、そしてリアル

キング・クルール『マン・アライヴ!』
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ALBUM
キング・クルール マン・アライヴ!

カニエフランク・オーシャンもラブコールを送るキング・クルールことアーチー・マーシャル。南ロンドン発・ブリット・スクール卒のSSWだが、別名義でサウンドアート的な作品も発表する彼の才能はまさに異物そのもの。その評価を決定づけた前作『The Ooz』から約2年半。3枚目のフル・アルバムとなる本作は、そんなマーシャルの寄る辺なきアウトサイダーぶりを相変わらず、遺憾なく伝えている。

19曲で1時間を超える大作だった前作に対して、本作は14曲で40分強。コンパクトな構成は本人が意図したところのようだが、その全編を通じた音楽体験の濃密さはまるで損なわれていない。むしろ凝縮されたといった方が正しく、音のスタイルやアプローチも何もかもが雑然としていて、騒然としている。ヒップホップのビートを敷いたパンク・ジャズ、暗渠を徘徊するようなブルーズ、ダウンテンポな弾き語り、アンビエント/ドローンに乗せたポエトリー・リーディング、ホワイト・ノイズと反響するサックスの渇いた音色……。随所にサンプリングやフィールド・レコーディングも織り交ぜたサウンドは音響的で、サイケデリックな感覚さえ喚起させる。ただしけっして散漫な印象がないのは、前作に続きディリップ・ハリス(マウント・キンビー、プーマ・ブルーetc.)が共同でプロデュースを手がけていることも大きいのだろう。

そして、そんな“サウンド”の一部を成しているマーシャルのボーカル。声色を変えて呟き、がなり、呻きながら赴くままに吐き出されるその歌声は本作においても同様、今の閉塞した時代の空気を捉え、そこに生きる若者たちの心象風景を生々しく映し出しているようだ。キング・クルールとは何者か――その答えをあらためて雄弁に物語る1枚である。 (天井潤之介)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』4月号に掲載中です。
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キング・クルール マン・アライヴ! - 『rockin'on』2020年4月号『rockin'on』2020年4月号
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