まだまだロックンロールに恋ができる

ザ・ビュー『フィッチ・ビッチ?』
2009年02月11日発売
ALBUM
ザ・ビュー フィッチ・ビッチ?
『rockin’on 2009年3月号』のインタビューでカイルは「変わるかなと思ったけどそうでもなかった」とか言っているが、とんでもない。そもそもハーモニカとピアノから始まるM1“ティピカル・タイム2”からしてそうだが、ストリングスをフィーチャーしたり(“アンエクスペクテッド”や“ディスタント・ダブロン”)、ハード・ロックみたいな曲があったり(“グラス・スマッシュ”)、自由奔放なアイディアが詰まっている。青春突っ走り系ロックンロール一辺倒だった前作を彷彿とさせるのは “5レベッカズ”を含め数曲ぐらいで、それらにしてもションベン臭さが消えている。

というわけでカイルくんには悪いがこれは「大変化」である。しかし、本作の本当の素晴らしさはむしろ「変わっていない」ところにある、とも思う。どういうことかというと、普通ならば音楽性の拡張にともなって拡散してしまうはずのロックンロールへのロマンティックな憧憬が、しっかりと息づいたままなのだ。どの曲も、したたかでニヒルな戦略によってではなく、ロックンロールへのまっすぐな憧れによって生まれている。田舎から出てきて、先輩バンド(彼らの場合はベビシャン)に見出され、プッシュアップされる――ザ・ビューの物語は、いわば古典的なロックンロール・ストーリーだ。いまどきそんなことがなぜ可能なのかといえば、彼ら自身が真剣にそのロマンを信じているからだろう。だから、いくら洗練され、グッド・メロディに磨きがかかろうと、ザ・ビューのロックンロールはますます瑞々しく光っているのだ。(小川智宏)
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