アンダーワールドの創造性が解放された壮大なプロジェクト「Drift」シーズン1がついに完結! その最終エピソードを徹底レビュー
2019.10.29 19:15
以前からお伝えしている通り、現在アンダーワールドが取り組んでいるプロジェクト「Drift」シリーズは52週にわたって音楽、映像、エッセイをスピーディかつリアルタイムで発信していくもの。長くリスナーを楽しませてきたこの取り組みも、先日「エピソード5」でいよいよ完結したため、あらためてレビューしたい。
「エピソード5」のタイトルは『GAME』。ミニマルなビートが繰り返されるなか、メロウな和音が鳴らされるダウンテンポ“Toluca Stars”で幕を開ける。これまでのエピソードよりも抽象的なニュアンスのオープニングだと言えるだろう。じわじわとテンションを高めていく1分半ほどのテクノ・トラック“Mile Bush Pride”を挟んで、“Imagine a Box”は本エピソードの核となるトラックだ。どこか『ボクー・フィッシュ』の時期を連想させるような、BPMが速くトランシーなテクノ・ナンバーで、ひたすら繰り返される電子音と妖艶なカールの歌の絡みがクセになる。
「Drift」シリーズは毎度映像も見どころだったが、そういう意味でビジュアル面で最高傑作のひとつと言っていいだろうナンバーが“Tree And Two Chairs”だ。俯瞰ショットで交差点を映しながら、図形のパターンがスタイリッシュに重ねられるというもの。音楽的には13分以上にわたって続く非常にヒプノティックなミニマル・テクノで、少しずつ変化していくなかチルでジャジーなテイストが入ってきたりと繊細なアレンジがじつにうまい。映像とも相まって、ディープな没入体験を味わうことができる。
続く“Give Me The Room”は、これまで何度もフィーチャーしてきたØ(フェイズ)を迎えたアグレッシブなトラック。午前2時か3時くらいのクラブのフロアのムードとでもいうか、非常にディープな雰囲気だ。「エピソード5」、そして「Drift」シリーズのラスト・トラックとなる“S T A R”はドラムンベース風のリズムで疾走するナンバー。スキット風のカールのボーカルと、やがて被せられる温かなシンセの和音に“Born Slippy Nuxx”を思い出す人も少なくないだろう。
「Drift」シリーズはアンダーワールドが持つ非常に多面的なサウンドやアート・プロジェクトとしての広がりを堪能できるものだったが、どこかでキャリアを総括するようなムードを持っていたことが興味深い。と同時に、いわゆる「アルバム」という制限から解放されたがゆえに、かつてないほど伸び伸びと音楽に向き合っている姿勢が感じられるものだった。
間もなく届けられる、これまでの「Drift」シリーズをまとめて再構成した『Drift Series 1 - Sampler Edition』に「シリーズ1」と題されていることからもわかるように、どうやら少し間を空けて「シーズン2」も始まるようだ。ひとまず繰り返し「シリーズ1」を満喫しつつ、自分たちのクリエイティビティを遺憾なく発揮するプラットフォームを完成させたアンダーワールドの門出を祝福したい。(木津毅)
アンダーワールド「Drift」シリーズに関する記事は以下。