面白かった？ そうですよね。難しかった？ そうですかね。長かった？ まあ２時間半やりましたからね。
いやいやいや、そんなものじゃないんですよ、このインタビューは。
今月号のVaundyのインタビューは、僕が過去35年以上やってきたインタビューの中でも屈指の、ものすごく画期的なインタビューです。今の音楽シーンに起きていることは何なのか、このインタビューを読めばほぼすべて理解できます。これからの日本のポップミュージックがどこへ向かうのか、このインタビューを理解すればはっきりと見えてきます。みんながあーでもないこーでもないと音楽について語っているあらゆる分析や推論の先にある「答え」を、23歳の一人の男が一気に全て語り尽くした、それがこのインタビューなのです。
確かに、少しマニアックで専門的な話ではあります。Vaundy本人もそれを少し気にしていたようだし、僕も文字に起こしたものを読んだときにそれは感じました。もう少しわかりやすい話やキャッチーな話を織り交ぜてもっと読みやすいインタビューを目指すべきだったかなあ、とあとから悩みました。でもすぐに思い直しました。こういう特別に優れたアーティストの、音楽に対する特別に優れた言葉をそのままリアルに届けることこそが音楽専門誌の、ロッキング・オン・ジャパンのやるべきことそのものじゃないかって。難しいと思ったらじっくりと考えながら読んでくれ。長いと思ったら何日かけてでも読んでくれ。その価値は間違いなくあるテキストなんだから。そう思い直しました。
米津玄師が本誌に初めて登場したのが11年前の2012年で、そのときに僕はインタビューを前編後編に分けて異例の２ヶ月連続で全文を掲載しました。その時の記事の冒頭に僕は「間違いなく10年に一度の才能を持ったとんでもないアーティストである」と書きました。Vaundyは明らかにそれに次ぐ10年に一度の才能であることを、このニュー・アルバム『replica』ははっきりと証明しています。アルバム『replica』のDisc1とこのインタビューの言葉たちは、完璧に「今の時代のポップの本質」を刻んだと言っていいと僕は思います。
山崎、それはわかったから『replica』のどこがそんなに凄いのかをもうちょっと簡単に説明してくれないか、と思われている方も少なくないかもしれません。わかりました、簡単に言いましょう。『replica』は気持ちいいんです。聴いていて最高に気分がいいんです。なんだそれ？そんなの人それぞれだし、べつに特別でなくても優れてなくても気持ちいいと思える音楽なんていくらでもあるし、自分が好きなアーティストなら聴いてて気分よくなるもんだろう？と言われるかもしれませんが、違うんです。「今」が鳴ってるんです。音の好みやアーティストへの思い入れとかに応えるために音楽が鳴っているんじゃなくて、「今」そのものが音楽として鳴ってるんです。それがポップということなのです。そしてそれは限りなく気持ちいい。だから真にポップなものは間違いなく売れるんです。それを怖ろしく高い精度で、凄まじい熱量で、緻密な理論構築の上で、しかもアルバムトータルでやったのが『replica』なのです。
純度100％のポップ。アルバム『replica』は日本のポップのすべてを変える。それをやれるアーティストは、やはり10年に一人ぐらいしか現れないのかもしれません。（山崎洋一郎）
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