はっきり言って、ハードルの高いライブだ。ボブ・ディランのことをどれだけ知っているか、ボブ・ディランの音楽をどれほど理解しているか、リテラシーを問われる。同じ大レジェンドでも、ローリング・ストーンズやポール・マッカートニーのライブとは根本から違う。みんなが知っている有名な曲を連発してくれるエンタテインメントとは、いわば真逆のライブだ。フジロックの時もその前の単独来日の時もそうだったが、でも今回ほどではなかった。ボブ・ディランの近作を熱心に追って来たわけではない僕は、そのハードルを前に立ちすくんでしまった。
そこから、その簡単には掴めないボブ・ディランの歌とピアノ、そして恐るべき巧みさでそれをキャッチしながらフォローするメンバーの演奏を無我の境地で追っていくと、やがて世界観が立ち上がってくる。伝統的でありながら生々しい、反復のようでいて衝撃性に満ちた、ボブ・ディランの世界だ。円熟とエクストリーム、肉体の衰えと魂の強靭さ、慈悲と冷酷さ、それが光と影としてリアルに存在するボブ・ディランの歌の世界。今回のように、大人気曲を排したセットだったからこそ、強烈に感じることができた。
曲の間奏やエンディングで、まるでセロニアス・モンクのように、声を上げるようにピアノを弾く82歳のディラン、かっこよかった。

次号のロッキング・オンで、このツアーの超ロングレポートを含む表紙巻頭の大特集を組むので是非手にとってみてください。（山崎洋一郎）

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