オープニング1曲目から花吹雪の嵐、ヴォーカルのウェイン・コインは謎のビニールの球体の中に入り、客の上をゴロゴロと動き回り、ほとんどコンサートのラストのような演出で盛りあがった。常に幸福感に満ちた派手な演出で有名なバンドではあるが、このいきなりで無理矢理な絶頂感は、これで最後まで行けるのだろうかと不安になるほどだ。しかし彼らはこのテンションで2時間近いライヴを走り抜けてしまった。
1983年オクラホマで結成されたバンドで、分かり易くポップなメロディーを実験的なサイケデリックサウンドで表現する、ユニークな音楽スタイルを持っている。アルバム4枚を同時再生する実験的な試みに挑戦したりして、かなり独自な活動をしているが、基本的にはポップ・ミュージックの楽しさを追求する姿勢を持ち続けている。根強い人気があり昨年発表された最新作「エンブリオニック」も全米アルバム・チャート8位にランクインした。日本でも熱心なファンが多く2日間の東京公演にもたくさんのお客さんが集まった。
自由で実験的な音楽と、その活動姿勢は現在のロックシーンを担うアメリカの若手バンドの多くに強い影響を与えている。ただ逆に言ってしまうと、そのユニークさが一種の古典のようになってしまい、実験的でありながらどこか予定調和なものになってしまう危険もある。オープニングからいきなり絶頂感へ持っていく、かなり乱暴な演出も、彼らなりの予定調和なものだけは作りたくないという強い意志の説明のようでもあった。
古典的な前衛性、予定調和な実験性、そうした矛盾からどこまで逃げきれるか、それがこのバンドの宿命なのである。
11月17日 Zepp Tokyo
(2010年11月30日 日本経済新聞夕刊掲載)
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2010.12.02 21:31