日経ライブレポート 「アントニー・アンド・ザ・オーノズ」

舞踏とロックがコラボレーションするライヴが先日行われた。踊るのは大野慶人。伝説的な舞踏家大野一雄の演出を担当、自らも舞踏家として素晴らしいキャリアを誇る人物だ。歌うのはアントニー。イギリス出身のミュージシャンで、高い芸術性と独自の表現スタイルによって評価と人気を獲得しているアーティストだ。昨年発表されたアルバム「ザ・クライング・ライト」は大野一雄に捧げられた作品で、ジャケットも彼の写真が使われている。

演奏はアントニーのピアノと歌に、ロブ・ムースのギターとヴァイオリンという弾き語りに近いシンプルなスタイルだった。しかし逆にその形だとアントニーの歌の圧倒的な存在感が際立ち、400人くらいのホールに居た聴き手は彼の歌のリアルを直接的に感じとれたのではないか。その歌をバックに踊るのだが、歌い手と踊り手の互いへのリスぺクトが不思議な緊張感と共にユーモアを生み、想像以上に自然なコラボレーションになっていた。

アントニーはニューヨークで大野一雄に学んだモリーン・フレミングのところで舞踏を志した事があるくらい大野一雄を尊敬し、芸術家として自らの魂のような存在とまで言っている。この日も舞台では大野一雄の踊りを撮った映画が上映された。それを観ながら、この日の主役は、この不在の大野一雄なのだなと僕は思っていた。大野慶人の踊りは言うまでもなく大野一雄を引き継ぐものであり、アントニーも音楽という形ではあるが大野一雄の精神を継いでいる。ロックと舞踏という普通なら距離のある表現が見事に統一されたのは、まさに大野一雄という共有されたテーマがあったからなのだ。

2月11日 赤坂草月会館
(2010年2月22日 日本経済新聞夕刊掲載)
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