ロックがまだ幸福な趣味のにおいを持っていた時代、いろいろなミュージシャンが集まり「ブルース」という魔法の言葉を使うと、最高のグルーヴが生まれ、とても楽しいセッションが可能だった、クラプトンもジェフ・ベックも、そんな特権的な世代を代表するミュージシャンだ。
しかしロックのそんな幸福な時代は過ぎ去り、ブルースという言葉も魔法の威力を失っていった。ロックは趣味でなく仕事になり、ビジネスになり、よりタフになっていった。僕はそれはロックの持つ必然だと思うし、そんなロックだからこそ素晴らしいと思っている。
でも、五十七歳の中年ロック・オヤジとしてそんな幸福な時代を懐かしむ思いがないかといえば、それは確かにある事を認めざるを得ない。この日、さいたまスーパーアリーナを埋め尽くした中年男性の多くはそんな幸福な時代を懐かしむ仲間達だった。
ひょっとするとつまらない趣味的なセッションになってしまうのでは、という不安と、もしかすると驚異的なインプロビゼイション(即興)の応酬による壮絶なギター・バトルが展開されるのでは、という期待と、両方あったのだが、どちらも起きなかった。でも仲間達は皆、幸福そうだった。
2009年2月22日 さいたまスーパーアリーナ
(2009年3月2日 日本経済新聞夕刊掲載)
日経ライブレポート「エリック・クラプトン/ジェフ・ベック」
2009.03.07 01:00