日経ライブレポート「カマシ・ワシントン」

今、ポップ・ミュージックはとても豊かな時代に入っている。ありとあらゆる音楽スタイルが融合し、ロックやソウル、あるいはジャズやヒップホップというジャンルの中には収まりきれない表現が多く出てきている。カマシ・ワシントンは、そうした時代の流れの最先端にいるアーティストといえる。彼の音楽スタイルはジャズであるが、彼がプレイヤーとして参加したアーティストは、ソウルやヒップホップ、ロックなどジャンルは多様だ。そこで彼は自分の本来的なスタイルであるジャズを演奏している。しかもコルトレーン・スタイルのゴリゴリのプレイだ。ところが彼の音はそれぞれのソウルやヒップホップと見事に溶け合い、彼らの音に輝きを与えている。

面白いのは、本来のジャズ・シーンで彼が異端であったことだ。彼自身が「ジャズ・クラブで自分は浮いていた」と語っているし、ジャズ・ジャーナリズムも彼の登場に戸惑い、どう扱っていいか分からなかったようだ。それだけ彼の存在は新しかったのだろう。

この日のライヴも、六本木にあるライヴ・レストランのムードにふさわしいヴォーカルものからコルトレーンまで多様な曲を演奏したが、一貫して感じられたのはこれまでのジャズとは違う彼の時代としてのリアルを第一義とする姿勢だ。つまり一部のジャズ・マニアでなく、広い音楽ファンの欲望に応えていくポップ・ミュージシャンとしての基本姿勢があるのだ。今ジャズは彼やロバート・グラスパーのような新世代によって大きく変革している。その現場に立ち会えた興奮を感じるステージだった。

7日、ビルボードライブ東京。

(2016年12月20日 日本経済新聞夕刊掲載)
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