いまやUSインディロックの最重要バンドのひとつとなったビッグ・シーフが通算6枚目となるアルバム『ダブル・インフィニティ』を9月にリリースする。間違いなく今年のインディにおけるハイライトになるだろう。というのは、ビッグ・シーフの新章を示す作品になっているからだ。
思えば、大絶賛された前作『ドラゴン・ニュー・ウォーム・マウンテン・アイ・ビリーヴ・イン・ユー』(2022年)は2枚組の大作であり、ビッグ・シーフの到達点と言えるアルバムだった。それまでじっくり探求してきたフォークやアメリカーナを基軸としつつも、ドラマーでありプロデューサーを務めたジェームズ・クリヴチェニアを中心として、アンビエントやダブを意識したモダンなプロダクションを同時に実現。伝統と革新がせめぎ合うスリリングなアメリカンロックが生まれていたのだ。そしてまた、エイドリアン・レンカー(Vo/G)の繊細に震える歌声を支えるアンサンブルは、4人のバンドとしての緊密さを示すものだった。
だからこそ、長年ベースを弾いてきたマックス・オレアルチックの脱退はバンドにとって大きな打撃だっただろう。お互いを尊重しての決断だったとのことだが、確実なのは、3人となったビッグ・シーフがそれでも前に進まなければならなかったということだ。
そして『ダブル・インフィニティ』は、前作と対照的に9曲入りのタイトな一枚として完成した。リードシングルでありオープニングの“インコンプリヘンシブル”を聴くだけで、これまでとは異なる感覚が立ちあがってくる。温かいフォークロックであることはこれまで同様だが、ツィターの調べが加わってサイケデリックな響きが生まれているのだ。演奏しているのは、なんとニューエイジの大御所ララージ。他の曲でもタブラやエレクトリックピアノを演奏し、さらには歌声も聴かせている彼は本作のキーパーソンと言えるだろう。
他にも多くのミュージシャンが参加しており、彼らと共に新たなサウンドに挑んだことが伝わってくる。この晴れやかなアルバムに込められた想いを、引き続き探っていきたい。 (木津毅)
ビッグ・シーフの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』9月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。
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