「空は誰?」と問う——デヴィッド・バーンの新作『フー・イズ・ザ・スカイ?』が9月に発売される。
今作は、『アメリカン・ユートピア』のポストユートピア的続編にして、哲学とユーモアを軽やかなビートに乗せた、まさに“ポップ哲学アルバム”だ。タイトルに込められた問いのとおり、今作は、愛も心も、社会も芸術も、自分自身すら時に理解できないという“わからなさ”の中に生きる私たちの姿を、優しく、妙に、そして時に笑いながら描き出す。
セイント・ヴィンセントやヘイリー・ウィリアムス、トム・スキナー(ザ・スマイル)ら豪華なコラボレーター陣に加え、NYの前衛的楽団ゴースト・トレイン・オーケストラが音像を豊かに支え、キッド・ハープーン(ハリー・スタイルズなど)のプロデュースで、身体感覚に訴えるグルーヴと知的な遊び心が溶け合った音世界が構築されている。
バーンのキャリアは長いが、前作『アメリカン・ユートピア』(2018年)以降、彼の表現はさらに鋭く、自由になっている。今年6月には、ガヴァナーズ・ボールでオリヴィア・ロドリゴのステージに登場し、“バーニング・ダウン・ザ・ハウス”を共演。新世代の観客から大歓声を受けたばかりだ。パンデミックを挟んで大ヒットしたブロードウェイ版『アメリカン・ユートピア』や、スパイク・リーによる映画化、さらにはトーキング・ヘッズの名作『ストップ・メイキング・センス』の4K上映やマイリー・サイラス、ロードなどによるトリビュート作発売など。過去と現在を自在に行き来しながら、音楽と社会、個人の感情を結び直す活動を続けている。
その中で生まれた『フー・イズ・ザ・スカイ?』は、「人はつながれる」と信じたその先で、改めて「それでも、どうやって?」と問い直す作品だ。《心の中には入れないかもしれない》《ブッダがパーティでタルトを食べている》——そんな問いと逸脱、世界の混沌、限界、可能性が織り込まれた、問いかけとグルーヴが共存するアルバム。答えは出ない。でも、問いとリズムがあれば踊り続けられる。わからなさと踊ること。それが、バーンが見つけた“空の正体”なのかもしれない。(中村明美)
デヴィッド・バーンの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』9月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。
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