英国インディレーベルの老舗にして名門、4AD。コクトー・ツインズ、バウハウス、ブロンド・レッドヘッド、ディアハンター、近年ではビッグ・シーフにドライ・クリーニング等々、豪華にして多種多様なバンド達が籍を置き、あるいは巣立ちながら、耽美で退廃的な世界観をもって一貫したレーベルカラーを維持し続けているその強固な「美学」は、間違いなく深い敬意を抱くに値するものだ。
そして、「クラシック〈4AD〉サウンドの正統後継者」と評され、4月にキャリア第2作にして4ADからのレーベルデビュー作となる『ラスター』をリリースするのが、マリア・サマーヴィルである。アイルランド出身の彼女が2019年に放った1作目『オール・マイ・ピープル』はアシッドフォークとアンビエントとが境目なく溶け合った、どこか懐かしいようでいて確かな独自性を獲得した秀作であり、秘めた才気を感じさせるに充分な内容であった。しかし、『ラスター』はそこから比べても驚くべき飛躍を遂げ、まさしく4ADの看板を背負うに相応しい作品となっているのだ。
昨年9月の先行シングル“プロジェクションズ”でも予告されていたが、前作の音楽性に明確に加わったのが、まず無機質ながら力強いビート。そして、軽やかに虚空を削り取るようなフィードバックノイズに、ポップでエモーショナルなボーカルメロディだ。元より折衷的であったサウンドにさらにシューゲイズやドリームポップの要素を重ね合わせることで、より分かりやすく、より広く遠くまで届き得る音像となっている。幾重にもレイヤーを張ったサウンドを用意しつつあえてボーカルの力強さを前面に出した“ガーデン”や、ドローンにより甘美なナイトメアに引き摺り込むような“ハロー”、絞りに絞ったビートに深いリバーブの霧を纏ったボーカルを被せるサイケデリックな“アップ”など、アルバムのムードは統一させつつ曲想がバラエティ豊かなのも魅力的だ。
「4ADの種」を内包した若き作家を見つけ、抱え、しっかりその花を咲かせるべく水を与えるレーベル。1980年の創設から45周年を迎える4ADだが、その審美眼は未だ曇り知らずであるようだ。(長瀬昇)
マリア・サマーヴィルの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』5月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。
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