「作り終えて聴いてみた時に驚いた。
すごく嬉しくなったし、全世界に感謝したくなった。
私がこの作品を作れたっていうことに対してね」
「目は口ほどにものを言う」という言葉があるが、西洋には「手は目よりも速い」という慣用句も定着している。奇術師が観客の目を欺く手先の早業を指して使われるようになったものであるらしい。
そんな言葉をふと思い出したのはスティーヴ・ヴァイというギタリストが繰り広げる音楽の魔法に、思考が追い付かなくなることがたびたびあるからだ。
ただ、その音楽はこちらの耳を欺くようなトリックにより成立しているわけではない。磨き上げられた熟練の技と、尽きることのない好奇心や開拓精神。ソロ名義での第10作にあたる『インヴァイオレット』もそこから生まれたものだといえる。
近年の彼は、右肩の腱の断裂により手術を要する事態となり、さらには左親指の「ばね指発作」が悪化し、一時は楽器の演奏自体が困難なところまで追い込まれていた。天才、万能などと形容されがちな彼ですら肉体的な限界には抗えなかったということになるかもしれない。
が、それでも彼の創作意欲が妨げられることはなく、いわゆるパンデミックの影響が今作に色濃く反映されることもなかった。そんな彼の思考のあり方を覗くべく、取材に臨んだ。(増田勇一)
スティーヴ・ヴァイの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』3月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。