ダニー・ボイルの新作が最高でシガー・ロス@TIFFその10
2010.09.21 00:00
今年のトロント映画祭で個人ベストは、ダニー・ボイルの新作”127 HOURS"だった。
ジェームス・フランコ演じる主人公は、どこにでもいそうな普通の青年。割と人生気楽に自分勝手に生きてきて、登山が趣味。ある時登山に出かけ、岩に腕を挟まれてしまう。そこから、127時間の脱出劇が始まるのだ。だから、映画の中では全編基本的には岩に挟まれたまま。しかしそこで、ダニー・ボイルならではの映像を巧みに使ったり、主人公が自分のこれまでの行いを見なしたりするフラッシュ・バックのシーンを挿入しながら、思いっ切りエンターテイニングにしかもエモーショナルに物語を綴っていくのだ。
例えば、タイトルの”`127 HOURS" が入る瞬間など、その映像の使い方は拍手しそうになったくらいスタイリッシュと言えるのだけど、ダニー・ボイルの素晴らしいところは、決してそれが上から目線にならないところだ。こんなかっこいい映像、わかる人にしかわからないよなという瞬間が一度もない。それは主人公に対する目線も同じだ。『スラムドッグ$ミリオネア』でインタビューした時も言っていたけど、自分が労働者階級の出身でもあるし、アンダードッグが勝ち上がっていく物語にどうしてもひかれてしまうのだ、ということだから。
とは言え、この物語の主人公はアンダードッグですらない、本当にどこにでもいそうな青年なのだ。もちろん、生きるか死ぬかの逆境には立たされているという意味では究極のアンダードッグではあるけど。そういう青年を主人公にして彼は「この一瞬を精一杯生きろ」というメッセージを投げかけてくる。しかし、これがまったく説教臭くないのだ。
またほとんど一人芝居をしなくてはいけないジェームス・フランコが最高。お気楽人間だけど、やっぱりどこか憎めなくて、最悪の事態に立たされているんだけど、どこか希望を与えてくれるような愛嬌が最後まであるのだ。
さらに、ダニー・ボイルと言えば、音楽の使い方も天下一品。前作では、一番いいシーンでM.I.A.が流れたが、今回は、なんとシガー・ロスだ!しかも”Festival"が流れるんだけど、その瞬間涙がぼわーーーーーーーっと溢れてしまった。あーもう天才と思うのだが、どこまでも庶民の味方という包容力が本当に素晴らしい。ちなみに、この作品は実話が元になっている。あ、それから相当えぐいシーンがあって、トロントの一般上映では倒れた人がいたということだが、私はそういうシーンがまったく苦手なので、やばいと思った瞬間から目をつぶっていた……。
”127 HOURS"は、この分でいくとアカデミー賞で、作品賞、監督賞、主演のジェームス・フランコが主演男優賞、とノミネートされることになると思う!!!強敵は、『ソーシャル・ネットワーク』だろう。それと現時点では、デヴィッド・O・ラッセル監督、マーク・ウォルバーグ主演の『THE FIGHTER』が注目されている。トロント映画祭で上映された作品の中では、”KING'S SPEECH"(写真2枚目)が作品賞、監督賞、主演男優賞(コリン・ファース)でノミネートされるのではという評判の良さだった。