フェスが天気との闘いなのはどの国でも同じ。NYのフェス、「The Governors Ball Music Festival」も雷雨の予報だったため、開始時間が遅延されて、途中でキャンセルされるという混乱の最終日となった。
結局、午後6時半開場となり、出演者も大幅に変更。最大の反発を受けていたのがチャーリーXCX 。よりによってプライド月間なのに彼女がキャンセルされるのはあり得ないと多くのファンがコメントしていた。その日、彼女はすぐにマンハッタンでのクラブギグを発表。即完していた。
そして、フェスが開場し、いくつかのアクトが終了した後、結局ヘッドラインのザ・ストロークスの前に「速やかに退場してください」と放送され、フェスはキャンセルされてしまった。その直後、本当にものすごい雷雨に見舞われた。
1)ストロークスのファンが地下鉄で合唱
しかし素晴らしいと思ったのは、ファンがストロークスの曲を地下鉄で大合唱していたこと。様々なサイトにポストされていたが、ストロークスのニコライがツイート。
「今日来てくれた人達には本当に申し訳ない。僕らもステージに立つ準備は万端だったんだ。だけど、ガバナーズボールは天気に関して正しい判断を下したと思う。
それに僕らのファンは最高にクールだ! このビデオを見て心がほっこりした。この埋め合わせをするために最善を尽くすよ」
2)シザファンもがっかり
ストロークスの裏でシザがセカンドステージでヘッドライナーの予定だった。私の友人始め、シザを観るのを楽しみにしていた人達が大量にいたため、落ち込んだ人達がみんなTwitterに書き込んでいた。シザもツイート。
「私を観に来てくれたのに、結局ずぶぬれになってしまった人達、本当にごめんなさい。私達も新しいセットリストで演奏しようと頑張っていたのよ。でも神様は違うことを計画をしていたようね。ガバナーズボールで演奏できるだけでも感謝していたのに。来年ね!」と。
しかし、ファンが振替のライブができないか?と聞くと、「実はそれができないか今日1日考えていたところ」ともツイートしていた。
ストロークスもシザも難しいとは思うが、なんとか代わりのライブをやって欲しいものだ。
3)観られた数少ないアーティスト
リリー・アレン:
個人的には久しぶりとなるリリー・アレン。スカから始まりエレクトロ、最新作では昨今流行りのダンスホール、レゲエと様々なスタイルを取り入れてきた彼女。この日驚いたのは、スタイルが変わっても同じ強度のポップソングに仕上がっているので全体のトーンとしてブレていないこと、また、過去の曲がまるで古びていなかったことだ。
さらに、リリー自身の社会への恐れを知らぬ鋭いコメントなども同様にまったくブレてなくて、健在な彼女が観られて嬉しかった。
「今日ここに来られて良かった。とりわけトランプがいない時だから。トランプは今私の国に行っているのよね」とちくりと語ったかと思うと、ルブタンのハイヒールにカントリーを彷彿とさせる衣装で登場したが、「なんか超蒸し熱いわね。ファック」と言って、ジャケットを脱いだ。中がレースになっていて、胸が丸見え。「みんな私の胸を観ればいいわ」とも。胸を見せるのを禁止するソーシャルネットワークに反発しているのか、単に本当に熱かったのかは不明だが、警官と一緒に写真を撮ってそれをツイートしていたからカッコいい。
さらに、「私のおっぱいに気を取られて見逃していた人達のために」とこの日のために作られたジャケットも披露している。
「私は笑ってるわ。あなた達も笑ってると嬉しい」と言って“Smile"を披露。また、「プライド月間にチャーリーXCXをキャンセルするなんて犯罪よね」とも。前日の闘う女子達の続きのようで、彼女ならではのポップソングが遅れて始まったフェスのムードを一気に上げたので、エンターテイナーとしての真髄を知る思いだった。
テイラー・ベネット:
ご存知チャンス・ザ・ラッパーの弟。この日はメインステージに登場予定だったが、小さいステージでパフォーマンス。ほとんどのアクトがキャンセルとなった中で、彼への期待が伺えるし、実際小さい会場に溢れんばかりの観客が集まった。
この日のライブはよりヘビーなギターグルーブとキーボードが特徴のサウンド作りで、飛び跳ねんばかりに表れて、そのまま最後まで観客席に飛び込んだりしながら突き進んだ。コラボレーターのBianca Shawも登場。「これは兄貴のためにもやらないと」と言って、短い時間でチャンスとのコラボ曲“Broad Shoulders”も披露。シカゴのアーティスト達とコラボしながらも、“Rock 'N' Roll ”や“Be Yourself”などチャンスとはまた違うサウンド作りで人気も急上昇中。次はもっとしっかり観たいと思うパフォーマンスだった。
ちなみに、彼は数年前にバイセクシュアルであることをカムアウトしている。このフェスのテーマのひとつをサポートするアーティストでもあった。というか、今時の若いアーティストでゲイかゲイではないかに関係なく LGBTQコミュニティをサポートしない人も少ない様な気がする。もっと当たり前のこととして、概念が大きく変わっているように思う。
Nas:
テイラー・ベネットは、Nasに影響を受けているとも語っていて、実際Nasの前座も務めたことがある。なので、テイラーが終わって Nasが始まるのはぴったりな流れでもあった。Nasのようなアーティストをフェスで観るとその偉大さが一目瞭然だ。やはり始まった瞬間から曲もパフォーマンスも明らかに格が違う。傑作中の傑作『Illmatic』から“The World Is Yours", “N.Y. State of Mind” , “Life's A Bitch”も惜しみなく披露するし、“Halftime”も“It Ain't Hard to Tell”も。結局アルバムから半分もパフォーマンスした。カニエ・ウェストがプロデュースした最新作からは1曲しか演奏しなかった。
途中、今時のキッズ達に向かって「カセットテープって知ってる?」と言っていたのが笑った。“Halftime”でカセットシングルを受け取った日は、本当に誇りに思ったんだと昔話を披露。「ちょうどこんな春と夏の間みたいな日だったんだ」と。それでカセットの使い方を説明したので、観客は大喜びしていた。
また、モブ・ディープの Havocが参加し“Eye For An Eye”を共演したのだが、亡くなったザ・プロディジーのキース・フリントに捧げてパフォーマンスされた。ハイライトのひとつだった。
“Hate Me Now"の頃には雨が降り始めたのだが、すでに観客は盛り上がりすぎていて雨は関係ない、という感じだった。“One Mic”と“Cops Shot the Kid”でライブは終わったのだが、その佇まいは終始メインステージでもフェスでも関係なく、思い切りリラックスしたムード。気負った所も何もないのに圧巻のパフォーマンスだったというのが驚異的だった。様々なバンドが登場するフェスには彼のような時代が変わっても揺るぎないレジェンドが登場するのは大事だと改めて実感した。
この後にストロークスが登場しフェスは締めくくられるはずだったが、期せずして Nasがしっかりとフェスを締めくくってくれた。
その後、私はストロークスを、友達はシザを待っている間に「速やかに会場を退散するように」とのアナウンス。本当に強烈な雷雨に見舞われたので、そこで終わりで正解だった。
最後は残念だったが、最終的にはやはりフェスは素晴らしいという感想。フェスシーズンいよいよ開幕。日本の皆さんも天候には気を付けつつ、ぜひ満喫してください!