ファレル・ウィリアムスが、彼の出身地であるバージニア州のバージニアビーチで初となるフェス「Something in the Water」を開催した。4月26日から28日まで3日間で行われたこのフェスに行って来たのだけど、これまで長年様々な国の様々な場所でフェスを観て来たが、中でも非常にスペシャルで感動的なフェスだったと思う。
まとめの映像がこちら。
https://twitter.com/sitw/status/1123248140147027968
この時期のバージニア・ビーチは、「カレッジ・ビーチ・ウィークエンド」と称して、春休みのカレッジキッズが集まる場所として有名だった。しかし、去年は、その週にこのフェスが行なわれた場所で若者による襲撃事件などが起きた。このエリアは、ここ数年近寄らない方がよい危険な場所となっていたのだ。ファレルは、この会場から1.5キロも離れていない場所で育ったそうだが、音楽の力を機動力にしてみんなで団結してフェス以上のフェスにし、コミュニティと経済と愛をもたらすことができるんだと証明したかったそう。だから彼の地元への愛と信念と努力が隅々まで感じられるフェスになっていた。それがこのフェスを他のフェスとは違うスペシャルなものにしていた。
1)集まったメンツが豪華すぎ。
彼が呼びかけたからだと思うが、とにかく集まったメンツが豪華すぎ。
元々のラインナップでも、トラヴィス・スコット、
https://twitter.com/HYPEBEAST/status/1123003032835362817
SZA、スヌープ・ドッグに、彼が同郷でバージニアのクイーンと紹介したミッシー・エリオットに、
同じ同郷でキングと紹介したティンバランド。ディディに
https://twitter.com/Diddy/status/1122384120976478208}
バスタ・ライムスに、アッシャーまで。さらにアンダーソン・パークから、クリス・ブラウン、それに加えてサプライズで JAY-Zが出たのだ。
また雨で中止になったが初日は、グウェン・ステファニーから、ミーゴス、ジャネール・モネイ、同じく同郷のデイヴ・マシューズ・バンドなどが出演する予定だった。多くのメンツが彼の長年のコラボレーターであり、彼が尊敬する人達か、またはタイラー・ザ・クリエイターのように、「彼が誇りに思う」という若手などアイコニックなメンツばかり。
さらに、彼がいかに新しい音楽にアンテナを張り巡らしているのかも、例えば、今年のポップの顔と言えるロザリアや、 J.バルヴィンなどのブッキングで分かった。とりわけ、今では多くのアーティストから引っ張りだこのロザリアは、「アメリカで一番最初に私に連絡を取ってくれたのがファレルだった。本当に感謝している」と泣きそうになりながら語っていた。
2)アーティストも多数参加。
ミュージシャンのみならず、アーティストも多く参加していた。村上隆がTシャツのデザインをしていたし、カウズもTシャツのデザインをしていたが、それだけではなくて、ビーチに巨大なインスタレーション「Holiday」を持って来ていた。
また、会場のデザインやロゴなどもアーティストに依頼していてそれがいちいちかわいくて、そういうところにもファレルのこだわりが感じられた。
3)それでいてチケットが安い!
これだけ一流と言えるメンツを集めているのに、3日間のチケットの値段が$190と普通のフェスより少なくとも$100は安かった。ステージはひとつしかなかったがメンツが豪華。そして、この値段の安さとも関係しているとは思うが、黒人の観客が全体の80%くらいだった。DCで観たブロッコリー・フェスは黒人の観客がほぼ100%だったが、普通はフェスの観客は白人が大半だ。それだけでもファレルの努力が感じられる。というのも、これだけのメンツやアーティストを集めてこの破格の安さにおさえられたのも、ファレルの志にみんなが同意してサポートしてあげたいと思ったからだと思うのだ。
4)大企業も参加。
ファレルはこのフェスをフェス以上のフェスにしたいと語っているが、そのために、産業を街にもたらすことを目標にしていた。もっと具体的に言うと、フォーチュン500企業のCEOに街に来てもらいこの街の可能性を見てもらいたいというのだ。このフェスのスポンサーには、実際フォーチュン500の企業、ソニーから、通信会社のVerizon、アディダスなどが参加。各社ユニークなイベントを行なっていた。
まずソニーは、ステージを設置して、これから注目の新人などを紹介していた。私が観たのはCautious ClayとVanjess。
Cautious Clayは、フランク・オーシャン以降のR&Bサウンドという感じで、彼自身がギターを弾くのみならず、フルートからサックスも演奏。バンドメンバーは全員白人のヒップスターという感じで、その少しずつ奇妙なすべてをミックスして生み出すサウンドがとにかくクールだった。すでにジョン・メイヤーともコラボしていてブレイク間近だと思う。
Vanjessはすでに熱狂的なファンから声援を浴びていたが、ナイジェリア生まれアメリカ育ちの姉妹。90年代R&Bを2019年的に響かせていて、それが新しいサウンドを生み出していた。
さらに、見所だったのは、「360 Reality Audio Dome」。そこで特別に360 Reality Audio mixを体験することができた。これは、文字通りサウンドを360度で体験できるもので、それだけではなくて、例えば、Perfumeのコーチェラで配信されたパフォーマンスのビジュアルなどを手がけ世界的に活躍するアーティスト、ライゾマティクスの真鍋大度さんがこのシステムのために、ビジュアルも制作。真鍋さんは、ファレルの“Lemon”のグラフィックを手がけていた。
真鍋さんに直接話を訊く機会があったのだが、これまでもビョークなど様々なアーティストとコラボレーションしているが、ファレルとコラボするのは夢だったそう。今回映像を手がけるにあたり、彼のサウンドを「パラデータで聴けたことが何よりインスピレーションになった」と。パラデータで大好きなアーティストの音源を聴ける機会はほとんどないので、そのサウンドをいかにビジュアルで表現できるのかが楽しかったところだと。また“Lemon”の場合は歌詞が面白かったので、それを活かすようにしたということ。
また360度で展開するサウンドは、ファレルの“Lemon”を手がけたエンジニアが直々に、360度のスピーカー用に分解している。つまりこのシステムのおかげで、何もかもが最高級に贅沢で、優れた音楽を最高のビジュアルとサウンドで、ライブとアルバムの限界を超えたような究極の音楽新体験ができる。これがロッキング・オンのフェス会場や、サマソニの会場などにあったら、読者の皆さんも体験できるのに!とあまりに素晴らしい体験だったので思ったりした。ファレル本人も体感しに来ていた。
アディダスは非常にアディダスらしい展開で、バスケットのコートが作ってあったり、またサンダルやトートなどが無料で配られるのみならず、その場で自分なりのスタイルに色を付けられるクリエイティブなところが良かった。長蛇の列だった。また、地元の学生のダンスコンテストも行なわれていて、全員あまりに真剣で、会場も大盛り上がりだった。
通信社のVerizonとは新たな技術を開発し、バージニアの地元の中学校始め、全米の学校に実験室を作ってくれるということ。
5)レクチャーも。
さらに別会場では、テックビジネスで成功する方法、音楽パブリッシングについて、アメリカンドリームと平等のために闘うことについて、などのレクチャーも行なわれた。ファレルは、カリフォルニアでもComplexConというストリートカルチャーを融合させたフェスを開催しているけど、これはさらに音楽を軸にした総合イベントとなっていた。
6)教会まで。
カニエ・ウェストとはまたちょっと違うけど、しっかりと椅子も設置された教会の集会が日曜日に行なわれた。カーク・フランクリンなども出演した。
全国区の朝のニュース番組にも出演したファレルは、音楽でみんなを団結させられることをありがたく思っていると語っていた。今回音楽のみならず、企業や、教育なども含めこのフェスに理想を持ちながらも、実際何の事件もなく成功させたというところが偉大だと思う。インタビューの中でも語っていたが、これを実現させるために、市の役員から、警察、消防などに理解してもらい協力してもらう必要があった、と。また、何よりこの町で日々暮らしている人達に、様々な人を歓迎してもらう体制を作ってもらう必要があると語っていた。
帰りのタクシーの運転手さんが、この数年このあたりで、若者による事件が続き、レストランなどに強盗なども入ることから、せっかくビーチがあるのに、街が繁栄しなかったと言っていた。ファレルが、今回みんながハッピーになるように終わらせてくれたので、みんなこれで努力すればできるんだと思ってくれたら嬉しいと。タクシーはもちろん、レストラン、海岸の前のホテルから、隣街のホテルまで、実際産業をもたらし、地元の新聞を今チェックしてみたら、それから1週間以上経っているのに、地元の政治家やビジネス、市民が、いかに成功したイベントだったのかを語り続けていると書かれていた。フェス以上のフェスを故郷にもたらしたファレル本当に偉い!
https://www.wavy.com/news/local-news/virginia-beach/virginia-beach-city-leaders-talk-about-the-success-of-something-in-the-water/1964129940
あ、最後にちょっと笑っちゃったのが、ファレルが、ステージで、関係者の人達にお礼を言っていた中でデイヴ・グロールも入っていた。ちょっと唐突だと思ったのだけど、なんと同じバージニア出身。バックステージで得意のBBQを作っていたのだ。同郷の絆というか、デイヴさんらしくて素敵だと思った。
ファレルはすでに来年の計画を始めているという。