ボブ・ディランのブートレッグ・シリーズ『トラブル・ノー・モア(ブートレッグ・シリーズ第13集)1979-1981』が11月8日に発売となる。その中から、未発表曲の"Making A Liar Out of Me”が発表された。
Bob Dylan - Making A Liar Out Of Me
このブートレグ・シリーズは、ボブ・ディランのキャリアの中でも最も物議を醸し出したと言われている「ゴスペル」時代をまとめたものだ。デラックス版には、1980年からのほぼ未発表映像で作られた長編コンサート映画『Trouble No More: A Musical Film』も特典DVDで付く。この作品が、NY映画祭で世界初上映されたので観て来た。
監督のJennifer Lebeauと、作家のLuc Sante、そして俳優のマイケル・シャノンが上映後に壇上にてQ+Aを行った。
このライブドキュメンタリーの驚くところは、ライブ映画とも言えないし、もちろんドラマとも言えないし、さすがディランというか、観たこともないような作品になっていること。ディランは、「ゴスペル」ツアー時代に、ステージで説教をしていたが、このドキュメンタリーでは、ディランのライブ映像が1曲紹介される度に、マイケル・シャノン扮する牧師が登場し、説教をするのだ。
以下、監督、作家、シャノンがこの日話していたこと。
●37年前に撮影されたライブ映像が未公開で超貴重なものであること。
監督「倉庫にあってまったく忘れられていた。それはよくあることだけど、間違ったラベルが付いていて発掘されなかったのだと思う。なので紛失してしまったと思われていたものを、映像を1本1本3度見直すことで、ひとつずつ多くの人が知っている1980年のトロントのライブのオリジナル映像を集めた。さらにここでは、これまで未公開だったその後に行われたバッファローでのライブ映像も含まれている」
●挿入されている説教のシーンについて。シャノンが話すのは、1980年のことではなくて、2017年のモラルについて。
シャノン「ボブ・ディランのマネージャーから直接連絡があって、牧師を演じることになった。若い頃ディランの曲をウォークマンで聴いてから舞台に上がったりしたので胸が一杯になった」「説教の撮影はNYのアッパー・イースト・サイドにある教会で2日間で行われた」
監督「説教のシーンを挿入したのは、そうすることで、パフォーマンス自体を真剣に観ることができると思ったから」
Santa「説教を書くために1920年代の説教を参考にした」
●ディランが実際にライブ中にした説教を使わなかった理由は?
監督「制作の過程でもちろんボブの説教を使うか使わないかという話し合いにはなった。だけど、私達が目指したのは彼のこの時代における音楽を紹介するということだったから、彼の説教の映像は使わないことにした。それに、興味がある人は、トロントのコンサートでの映像をかなり劣化した形でYouTubeで見ることができる」
●ライブ映像をもっと長く使わなかった理由は?
監督「ライブ映像の長さについてもどれだけ使うのかという話し合いは行われた。最終的には、Lucの脚本とマイケルのパフォーマンス映像と合わせながら、どのバランスで見せるのが一番良いかを考えた上での結果となった。それに良い映画が常にそうであるように、もっと見たいというところで終らせるのが良いと思った」
●リハーサルの映像はもっとあるのか?
監督「リハーサルの映像は最高よね。実は何のためにリハーサルの映像が撮影されたのかよく分からなかった。恐らくテレビの特番用だったのではないかと思う。リハーサルの映像はもう少しある。その一部はDVDのボーナス映像になっている。残りは、ディランのことだからいつか発表されるのではないかしら(笑)」
●ボブ・ディランは制作に直接関わっているのか?
シャノン「それは知らないなあ」
Santa「僕が書いた説教のテーマは、ボブ・ディランから直接送られて来た。説教は6つあること。そしてそれはリアルであるべきだが、シュールリアルではないこと、などが書かれていた」
監督「映画を彼が観たかどうかははっきりとは分からないけど、観てないと思う」
●ここで挿入されている説教は、ディランが当時影響を受けて説教していたよりポジティブな愛などのムーブメントとはスピリットが違う。その当時の彼の内面をドキュメントする代わりに、まったく違うスピリットの説教をすることにした理由は?
Santa「それは説教の題材がボブ自身から送られてきたものだったから。もちろんそれを解釈したのは僕ということになるわけだけど。がっかりさせるような結果になっていたら申し訳ない」
監督「この説教の素晴らしいところは、今現代にいる私達に伝わる内容になっていることだと思う」
シャノン「この時代のディランが美しかったのは間違いないわけだけど、彼もこの時代からすでに前進しているわけだから。だから、単に幸せである空気感以上に複雑なものを描くべきだと思った。宗教に人々が惹かれるようになるのは、何かしらの安心を得たり、痛みを和らげるためではあると思うけど、でもそれを光で表現したところで、世界に痛みは存在するわけで、疑問が残る。日の当たるようなバイブがそれを直してくれるわけではない。もっと複雑なものなんだ」
日本盤は11月8日に発売されるよう。詳細はこちら。
http://www.sonymusic.co.jp/artist/BobDylan/info/486485
このシリーズからは”When You Gonna Wake Up”のライブ音源もすでに公開されている。
Bob Dylan - When You Gonna Wake Up