No Ageの『Everything In Between』を選出。
死に至るまどろみを鳴らしたマイ・ブラッディ・ヴァレンタインのノイズ。精神と乖離する肉体を物象化したナイン・インチ・ネイルズのノイズ。80年代以降のアメリカン・インディーが今もつむぎ続ける乾いた慟哭のノイズ。そして、ロックをふたたびレベル・ミュージックとしての原則に立ち返らせた、社会との摩擦としてのパンクのノイズ。ロックはこれまで実に多様なノイズを生み出してきた。というか、そもそもザ・ビートルズが「騒音」として登場してきたときから、それはノイズ以外の何物でもなかったといえるだろう。
アメリカ西海岸のノイズ・パンク・バンド、No Ageの「ノイズ」はそれではなにかといわれれば、パンクのスピリットを主体として、そのすべてが放り込まれたものといっていだろう。前作より格段に広がりをもった今作『Everything In Between』の音楽性は、パンクであることが必然的に生じさせてしまうノイズだけではなく、ロックの歴史が鳴らしてきたそれをも包括しようとしているかのようだ。
しかし、No Ageの「ノイズ」とこれまでの「ノイズ」には、決定的な断絶がある。それは、No Ageのそれは、明るい、ということだ。肯定的なのである。逃避であったり、否定であったり、葛藤であったり、摩擦であったり、そうした歯軋りのようなノイズではなく、No Ageのノイズは瑞々しく、人も自分も傷つけない類のものなのである。
そんなことがどうして起こるのか。少なくとも、そうしたこれまでの「ノイズ」の効能について、彼らがある種の更新を企図したことは明らかだとは思う。そのトライアルが未知の可能性を感じさせるアルバムである。