本日リリース。安藤裕子の『大人のまじめなカバーシリーズ』。過去披露してきた曲に、新録もプラスしてコンパイルされたもの。くるり、小沢健二、YMO、そして薬師丸ひろ子に至るまで幅広い名曲を包み込んだ本作。キーポイントはやはり「大人」かつ「まじめな」カバーアルバムという点だろう。
この手のカバー集は、各アーティストによっていろんな思惑があるのは当然で、それは例えば、自身のルーツを再確認する作業であったり、日頃接触がない異ジャンルに挑戦することである種の発散を求めたりと、その目的は様々である。ただ今作に関しては、そのどちらにも当てはまらないだろう。あくまでも各曲への愛情がベースにあって、それを当時(楽曲のリアルタイムであるなしにかかわらず)聴いた安藤裕子が「今」どう歌うかという、かなりパーソナルな時間軸で作品が構成されている。そしてアレンジや歌メロも、原曲に寸分違わず忠実ではないが、破壊的な解釈やアクロバティックな肉付けがされているというものでもない。変な自意識が投影されていないので、原曲の輝きがリアルに抽出されていて、同時に安藤裕子の歌力がよりシンプルな形で伝わってくる。下心なく、ピュアに原曲と向き合った結果だと思う。ゆったりと流れるタイムラインの中で、じっくり音楽に身を委ねることができる、とにかく贅沢なアルバムだ。(徳山)