DTMをベースに作られる楽曲が多い弌誠だが、“阿吽”はもちろん、“通リ魔”や“GAME OVER”などにも本筋にアグレッシブなロックがあることを感じることができる。その本筋にあるロックの要素が、生バンドの演奏により突出していた。ほぼライブの経験がないという弌誠だったが、パワフルな歌唱、踊り狂いながらの煽りなど、しっかりとフロアを熱くさせていた。そして、バックモニターに流れるMVや2次元の映像とのパフォーマンスのシンクロ率の高さにも驚いた。その演出も含めて「レストラン」というコンセプトがきれいに形になったセットリストだったと思う。弌誠シェフによるフルコースは、味わうほどに「もう一度味わいたい」と身体が自然と反応してしまう上質な料理ばかりだった。
そんな素敵な時間の中で、私が特にピックアップしたいのは、弌誠の歌唱力の高さだ。弌誠の楽曲はどれを歌おうとしてもここが難しいだろうなと思う箇所が多いのだが、その要因は音域の移り変わりの幅が広いことにあると思っている。“モエチャッカファイア”にしても、艶っぽい色気を残しながらも低音を保ち続けて歌うこともそうだし、中盤から最後には中音域を混ぜつつ声色を自在に変化させるところも難しい。弌誠の曲はそんなものばかりなのだが、現在リリースされている曲の中でも郡を抜いて、これはライブで歌唱できるのか?と思っていた“あられやこんこん”のサビで一気に上へと突き抜けるハイの超ロングトーンもブレることがなく安定していたし、余裕すら感じられる。なぜ、今までライブしてこなかったのか?と思うほどに魅惑的なパフォーマンスを見せていた。
今回、ライブで弌誠の音楽を味わったことで、私は弌誠がロックアーティストであるということを確信できた。むしろ、この弌誠の魅力を知らないのは勿体ないと思うほどに驚かされたライブだった──気になる人は、12月に開催される2ndワンマンで、ぜひ体感してほしい。そんな興奮が冷めやらない、最高のディナーをいただきました。(岩田知大)
『ROCKIN'ON JAPAN』10月号のご購入はこちら
*書店にてお取り寄せいただくことも可能です。
ネット書店に在庫がない場合は、お近くの書店までお問い合わせください。