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マット・キャメロン(パール・ジャム/サウンドガーデン)
そのスタイルを同世代との比較で形容するならば、トゥールのダニー・ケアリーとデイヴ・グロールの中間辺りに位置するのだろうか。パンクからメタル、ジャズ、プログレまで八面六臂のマット・キャメロンは、グランジのキーパーソンであるのみならず、90年代オルタナティブ最高峰のドラマーと見做すべき存在だ。
20歳の時に故郷サンディエゴからシアトルに移り住み、スキン・ヤードを経て86 年にサウンドガーデンに加入。当初のやや画一的なメタル寄りのサウンドが、91年の出世作『バッドモーターフィンガー』以降多様化したのは、ロックだけでなくジャズも聴いて育った、彼に負う部分が大きい。新ベーシスト=ベン・シェパードとの相性も良かったのだろう、パワー、精度、スピードに磨きをかけて、変拍子や複雑なゴースト・ノートを多用し始める。殊に“ジーザス・クライスト・ポーズ”は驚異的で、憑かれたようなプレイを聴くと、ザ・プロディジーが『ザ・ファット・オブ・ザ・ランド』でマットが叩くビートを取り入れたという逸話にも頷ける。
そして97年のサウンドガーデンの解散を受けてパール・ジャムに加わると、同郷の盟友のサウンドにも多大な影響を与えることになる。ソングライターでもあり、他の楽器もプレイする彼は独自のグルーヴ感を積極的に反映させて、06年にはバンド史上最もファンキーなアルバム『パール・ジャム』が誕生。またライブでは旧作の曲の印象をしなやかに塗り替え、エディ・ヴェダーの声に繊細なコーラスを添えるようになった。
こうしてパール・ジャムの音楽的なネジをゆるめたマットは、90年代からフリー・ジャズ系のトーン・ドッグスほか多数の課外プロジェクトを抱え、ラッシュのゲディ・リーのソロ・アルバムを始め客演作も多い。17年にはサイケデリック・ロック路線のソロ活動も開始したが、中でもぶっとんでいるのが、スリーター・キニーの一員だったジャネット・ワイス及び、デス・グリップスのザック・ヒルとの連名で発表したアルバム『Drumgasm』。ドラムだけのインプロ40分一本勝負を収めたものだ。
そんな風にエクスペリメンタルに振り切れることもあるが、エディみたいな王道ロック・ボーカリストを擁する本業バンドでは、エキセントリシティをアンセミックなロックにさりげなく消化する。このバランス感が彼の強みなのだ。(新谷洋子)
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