日本では欧米ほど知られていないかもしれないが、今年全世界でデビューと当時に前代未聞のヒットとなっているのがオリヴィア・ロドリゴの“ドライバーズ・ライセンス”だ。
何しろ今年1月8日に彼女が発表したこの曲は、1月11日にはSpotifyで世界1517万回再生され、クリスマス・ソング以外ではSpotify史上最高記録を樹立。その後史上最速の8日間で1億回再生を突破し、Apple Musicでは48ヶ国、Spotifyでは31ヶ国、YouTubeでは14ヶ国、ビルボードのシングル・チャートでは8週連続1位を獲得した(註釈:その後、4月に入り今年初めて世界総再生回数10億回を突破した楽曲となる)。
この現象を見て、メジャーなメディアも慌てて彼女の成功を説明する記事を掲載。つまるところ、全てが完璧だったと書いているところが多い。
まず、ファンベースがあった。Disney+の番組『ハイスクール・ミュージカル:ザ・ミュージカル』に出演し、彼女が書いた曲“All I Want”が番組最大のヒット曲になっていた。彼女自身は今のヒット曲には欠かせないTikTokで人気を得て、この曲にもそれを意識した箇所がある。さらに、彼女は失恋を歌ったこの曲で、共演者ジョシュア・バセットとの別れに触れているので、リアリティ番組的要素があった。
しかし何より評価されているのは、曲が良いことだ。それも彼女とプロデューサーのダン・ニグロの2人で作ってしまった。ある意味、ビリー・アイリッシュ的ともいえる。さらに歌詞では、彼女が大好きなテイラー・スウィフトのように失恋について日記を読み上げるように告白している。それがファンから共感を得る最大の要素だ。
曲の中ではフィービー・ブリジャーズ的なダークさがあり悲しい物語の主人公も演じていて、それでいて後半には大合唱できるカタルシスのあるロード的なドラマもある。
つまり、ネクスト・ビリー、テイラー、フィービー、ロードであり、今のメインストリームとインディを完璧なバランスで結んでいるのだ。クールにモダンにポップ・ソングを更新している。テイラーもエールを送っているし、確かに完璧な存在だ。
こんな記録的ヒットでデビューしてこの先心配だが、ディズニーのスターでありつつSSWでもある彼女はちょっと型破りで、まだ18歳で、才能もインスピレーションも未来に期待する要素しかない。今的なスター誕生といえると思う。(中村明美)
『ロッキング・オン』最新号のご購入は、お近くの書店または以下のリンク先より。