「つまるところこれは、曲じゃなく夢と呼ぶべきなんじゃないのかね? 俺が自分の夢を紙やテープに写し取っただけのものだからさ」
驚異的なまでにエネルギッシュな新作となったブルース・スプリングスティーンの『レター・トゥ・ユー』。Eストリート・バンドを率いての作品だからそうなるのは当然だと思いがちなところだが、実はこの7年間、ブルースはEストリート・バンドにふさわしいロック曲がなかなか書けなかったという。
しかし、ブロードウェイで自作曲群を振り返ったり、あるいは60年代に組んでいたザ・キャスティルズのジョージ・タイスが他界するなどの出来事にも触れて、自身の原点に立ち戻り、創作の源泉を汲み上げる機会に恵まれたかして、この圧倒的な創作の勢いを取り戻せたのだろう。
それにしてもタイトル曲“レター・トゥ・ユー”の感動はただものではない。というのも、ここで触れられる孤独と不安は初期のブルースがずっと歌い上げていたテーマで、これは明らかに過去の自分に向けて、きっと大丈夫だよと伝える曲だとしか思えないからだ。しかし、それはまたジョージ・タイスに向けたものでも、あるいは今のリスナーに向けたものでもあるのだ。
そんなブルースの現在の心境をつまびらかにしてみせる最新語録をぜひ堪能していただきたい。(高見展)
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