PEACE @ shibuya duo MUSIC EXCHANGE

PEACE @ shibuya duo MUSIC EXCHANGE - All pics by Chiaki KarasawaAll pics by Chiaki Karasawa
今年のサマーソニックのステージでは、初来日の新人バンドとは思えないほど骨太のプレイで沸かせたピース。サマソニから僅か1カ月での再来日というフットワークの軽さも彼ららしい、初の単独公演である。

定刻を10分ほど過ぎたところで、ジャクソン5の“I Want You Back”にのってバンドが登場する。バスドラにひらがなで「ぴーす」の文字が手書きされているのが見える。サマソニでは白のオーバーオール(しかもパンタロン)にラメのシャツ(しかもハイネック)という、ぶっとんだファッションで登場してファンの度肝を抜いたヴォーカル&ギターのハリソンだが、今日は普通の黒のパンツ&カーディガン姿だ(でも中に着たシャツはやはりラメだった)。そしてゆったりした足取りでステージ中央に歩み出したハリソンがフロアをゆっくり睥睨するように見渡したところで、デビューEPに収録(日本盤ではボーナストラックに収録)の“1998 (Delicious)”が始まった。

早くもライヴ後半のクライマックスみたいな音量でとぐろ巻く激重のグルーヴに度肝を抜かれる。しかも、この“1998 (Delicious)”は10分超の長大なジャム調ナンバーであって、普通はこんな曲をライヴのオープニングでやるバンドはいない。しかし、彼らはこの“1998 (Delicious)”をショウ全体の壮大な「イントロ」として鳴らしていたのだということが、間髪いれずに始まった続く“Follow Baby”で明らかになる。UK新人らしからぬ古風と言ってもいいこの劇的展開を真顔で、そして脈絡なくやってのけるのがピースというバンドだ。“Follow Baby”、そして“Bloodshake”とアルバム中でも1、2を争うダンサブルなアンセムが連打されたショウの前半は、アルバム以上にタイトなアレンジで曲がばんばん加速してばんばん終わっていく。“1998 (Delicious)”の大仰な展開とは対照的に「いい曲はシンプルに限る」とでも言わんばかりのスピードとエッジもピースの魅力で、特に“Bloodshake”は初期のフォールズを彷彿させるような小刻みなポスト・パンクのリズムが効いている。

PEACE @ shibuya duo MUSIC EXCHANGE
このバンドは基本的にハリソンがリード・ギターも主要リフも全部弾きまくり、ベースのサミュエル(ハリソンの兄弟)ともうひとりのギターのダグラスはサポートに徹している編成ではあるが、ドラムスのドミニクが異様に良いキャラで、オープンハンドで巧みにハイハットを入れまくり、ファルセットのコーラスもがんがん歌う彼の働きもあって、ピースの音楽は単なる90年代UKフォロワーではない、今様のモダニムズムにもリーチできているのだと思う。ほんと、UKバンドはドラムがしっかりしてると俄然強くなる。

続く“Float Forever”は言わばピースにとってのビートルズ“A Day In The Life”のようなナンバーで、時間の流れがここにきて一気に緩まり、サイケデリックに蕩け出していく。が、と思ったら次の“Lovesick”は再びのグルーヴ・ナンバー、そして“Toxic”は中期オアシスのオマージュのようなビッグなシンガロング・チューンと、つくづく脈絡がない楽曲陣ではあるのだ。この脈絡のなさは当然アルバム『イン・ラヴ』にも通じるもので、60年代から今に至るブリット・ロックの最高のエッセンスをとにかく全部詰め込んだ『イン・ラヴ』のナンバーを、とにかく1曲1曲に合ったベストな演奏スタイルに乗せて全力で再現する、ピースがやっているのはただ「それだけ」のことで、その無我と言うか、バンドの意思よりも楽曲至上主義なスタンスが、むしろこのバンドの得難い個性になっている。

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ジョン・スクワイアばりのアルペジオをキメた“Waste Of Paint”、可愛らしいギター・ポップ・チューン“Scumbag”、そして(プライマル・スクリームのあの曲と同名だが特に関連はない)“Higher Than the Sun”と、後半はどれもが2分、3分そこそこで終わるコンパクト設計。この、いくらでも展開できそうなダンス・ロック・チューンを敢えて展開させずに3分間ポップスとして完結させていくマナーは、かのトゥー・ドア・シネマ・クラブに通じるところを感じる。

そして満を持してのチルアウト・ナンバー“California Daze”でゆったりと白熱した空気を混ぜ、ハリソンが「アイシテルヨー」と嬉しそうに呟いたところでラスト・ナンバーの“Wraith”へ。“Wraith”はこの日随一のポップ・チューン……いや、そもそもこの日のライヴはポップ・チューンしかやっていない。なぜなら『イン・ラヴ』にはポップ・チューンしか収録されていないから。終演後、時計を見たらまだ20時前だった。全11曲で40分ちょい。短い! でも過不足なし! これが彼らにとっての正解だと思えるエッセンシャルな時間だった。(粉川しの)

1. 1998 (Delicious)
2. Follow Baby
3. Bloodshake
4. Float Forever
5. Lovesick
6. Toxic
7. Waste Of Paint
8. Scumbag
9. Higher Than The Sun
10. California Daze
11. Wraith
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