4度目の開催にして1周年を迎えたインディー・ミュージックの祭典=Hostess Club Weekender、2日目の模様をレポート(フィドラー、アンノウン・モータル・オーケストラ、パーマ・ヴァイオレッツ、バンド・オブ・ホーセズ、ヴァンパイア・ウィークエンドらが出演した初日の模様はこちら→http://ro69.jp/live/detail/77939)。その初日レポの中でも触れられているけれど、ダイナソー・Jr.やサーストン・ムーアらオルタナティヴの大御所たちが名を連ねた第3回とは打って変わり、今回は成長著しいグループから話題の新人まで、2013年現在のインディー・シーンを牽引してゆくアクトがズラリと揃ったラインナップだ。
2日目のトップに出演するのは、アイルランド出身のコナー・J・オブライアンを核に活動するヴィレジャーズ。2010年のデビュー・アルバム『ビカミング・ア・ジャッカル』がマーキュリー・プライズにノミネートされるなど高い評価を獲得してきた。5人組のバンド編成で、デビュー作のタイトル曲“Becoming a Jackal”を皮切りに、トラッド風或いはクラシカルと言っていいほどの、深みのあるメロディとアレンジメントに乗せて歌を届けてくる。いかにも若いインディー・バンド然とした風体なのに、歴史の中に積み上げられてきた音楽の神秘を自己の感情表現に取り入れてしまおうとするそのスタンスが不敵だ。妄想と探究心が描いた設計図にバンドが全力で追いつこうとしているような、そういう熱も受け止めさせる。新作『アウェイランド』の日本盤は3月にリリースされるが、今回演奏された楽曲の大半はその新作からで、プリミティヴなビートのループの中にギター・ノイズを振りまく“The Waves”なども熱かった。Hostess Club Weekenderの各日トップ・バッターはヤバい。そんな経験則を裏付けてくれたアクトだ。
続いては、ニューヨーク出身、新作『ベータ・ラヴ』をリリースしたばかりのラ・ラ・ライオット。イヴェントやフェス出演含め、今回が4度目の来日。一年ほど前に、チェロ奏者を務めていたアレクサンドラがバンドを離れたが、今回はサポートのチェリストを加え、レベッカが奏でるヴァイオリンと共にメロディのエモーションを増幅させてくれる。やっぱり力強さとウェット感が共存するラ・ラ・ライオットは健在だった。なのだが、新作『ベータ・ラヴ』のファンキーなエレクトロ・ポップ路線のナンバーはカラリとした楽しさもあって、その点が新鮮な感触。新作を聴いたときにも思ったけれど、何しろファンキーに弾ける曲調とウェスリーのソウルフルな歌声のマッチングがかなり良い。“Too Dramatic”や“St. Peter's Day Festival”といったアップテンポなナンバーを畳み掛けたかと思えば、レベッカがキーボードを担当して華やかなコーラスを導く“Dance With Me”と、彼らの広がる音楽性を見せつけるセットで、なんと16曲も披露してしまった。ウェスリーは終盤「またすぐに会いたいね!」と告げていたので、夏フェス辺りに期待しても良いのだろうか。
3組目は、「レディオヘッド第6のメンバー」でもあり説明不要のプロデューサー=ナイジェル・ゴドリッチによる新プロジェクト、ウルトライスタ。ナイジェルと共にアトムス・フォー・ピースのメンバーとなっているジョーイ・ワロンカーは、残念ながら今回は欠席。そのため、ナイジェルはベースにキーボードにと活躍するものの、ある程度はプログラミングされたトラックに頼らざるを得ないライヴだった。緻密なプロダクションにしても印象深いメロディ・ラインにしてもクオリティは高いが、アルバムに触れたとき同様「だってナイジェルだし」という色眼鏡を通して見てしまう気持ちは否めない。なので、自ずと視線は美貌のヴォーカリスト=ローラに注がれてしまうわけだが、歌唱力というより声質で聴かせるヴォーカルはともかくとして、極彩色の花飾りで覆われた鮮やかなブロンド・ヘアといい、セクシーな身振りといい、バンドのアイコンとして注目を集める力は想像以上だ。彼女のインパクトと、PVを利用した背景のヴィジュアル効果によって、トランシーでダンス性の高いライヴになっている。本来なら、AFPとも連動する、高度にフィジカルなテーマのパフォーマンスとなっていたかも知れない。今後改めて、メンバーが揃ったウルトライスタのライヴを観てみたい。
さて、ベスト・コーストの登場である。このカリフォルニアの男女デュオが来日ライヴを行うのは2011年のフジロック以来(その年の3月にモーニング・ベンダーズとのジョイント・ライヴが予定されていたが、震災の影響で中止に)。ベサニー嬢は「初めての東京よ! エキサイティングだね!」と告げて喝采を浴びていた。サポート含めて4ピース編成の真っ当なパフォーマンスだったのだが、これがもう素晴らしかった。フジで観たときとはケタ違いの、堂々としたライヴ。はすっぱ、というか言葉とメロディを投げ出すようなベサニーの自由な節回しにはしっかり芯も通っていて、どこのベテラン女性ロック・ヴォーカリストですかというぐらいカッコいい。奇を衒ったところは何もない。新作のタイトル曲“The Only Place”でサポートのベーシストがギターを抱え、ベースレス/トリプル・ギター編成の豊かなサウンドスケープを演出するというぐらいで、ギター・ポップ美学ど真ん中のパフォーマンスを見せてくれる。瑞々しいメロディとギター・サウンドの美しさ、それだけで最高。新作『ジ・オンリー・プレイス』はフォーキーだったりR&B風だったりするルーツ色を覗かせる楽曲が含まれていたが、これもベサニーの成長と足並みを揃えている印象で興味深かった。ラストは“Boyfriend”で大歓声を誘いながら、完璧にフィニッシュしてみせる。お見事。
そして第4回Hostess Club Weekenderの2日間を締め括るのは、ブルックリン発のダーティー・プロジェクターズだ。昨年秋にも朝霧JAM出演と単独公演で来日したが、今回はラ・ラ・ライオットと共にアジア諸地域を巡ってからの登場。“Offsprings Are Blank”の気が遠のくほどに美しいハミング・ヴォーカルとコーラスから始まる、徹底してエクスペリメンタルで同時にポップなパフォーマンスは、ただただ圧巻であった。ソウルフルな歌声と、いつのまにか体ごと乗せられてしまう変拍子、デイヴとアンバーの柔らかく絡み合うギター・プレイ。そのすべてが緊迫感をもって届けられるのだが、それ以上に音楽の生まれ落ちる祝祭感が会場内を包み込んでしまう。難易度の高いハンド・クラップに、きっちりと食らいついてゆくオーディエンスの姿もちらほらと目についた。なにが辛くとも、楽しいし幸せだからここまで突き詰めることができる。そんな思いを受け止めさせるのは、他でもなくデイヴが奏でていた、どこかコミカルで偏執狂的なギターの高速フレーズの数々であった。“Swing Lo Magellan”はデイヴ、アンバー、ナット(Ba)、ブライアン(Dr.)のメンバー6人中4人のみで演奏されたり、女性メンバーのハーモニーがこの上なく映える“Gun Has No Trigger”はギターレス編成であったりと、どこまでも自由に音楽を楽しむダーティー・プロジェクターズ。本編が“Rise Above”で歓喜のフィナーレを迎えた後も、アンコール3曲を加え、最高の大トリとしての役割を果たしてくれたのだった。
ステージの転換中には、エフタークラングやチーム・ミー、アルト・ジェイらのドキュメンタリー・フィルムが上映(チーム・ミーと、大阪在住のファンの姿を追いながら、東京公演での邂逅を果たす両者を捉えたドキュメンタリーは秀逸だった)され、今回も充実の企画が満載だったHostess Club Weekender。引き続いての第5回開催は、既に6/8(土)と6/9(日)に決定している。会場は、第1回及び第2回の舞台となっていた恵比寿ガーデンホール。ぜひ出演者などの続報をチェックしてほしい。(小池宏和)