過去2回のフェス来日(08年のフジ、12年のサマーソニック)の印象が強烈なせいか、もっと来ているような気になっていたゴティエだけれど、実は今回が初単独来日である。オーストラリアを拠点に活動を続ける彼は、6年ぶり(!)となった昨年の最新作『メイキング・ミラーズ』で世界的な大ブレイクを果たし、“Somebody That I Used To Know”は昨年世界で最も売れたシングルに認定されるほどに。元々は究極のDIYの宅録シンガーソングライターといったカルトな趣だったゴティエだが、この『メイキング・ミラーズ』で一気に本来のポップ・センスが開花したという印象だ。そして何より彼はライヴが素晴らしく、過去のフジでもサマソニでも一見さんのオーディエンスを瞬く間に虜にする「フェス荒らし」なパフォーマンスでのし上がって来た人でもある。
ゴティエの初単独来日ツアー2日目にして最終日、赤坂ブリッツ公演のオープニング・アクトを務めたのはさやと植野隆司からなるデュオ、テニスコーツ。彼らがまた異色のパフォーマンスで、歌とアコギのみの超絶シンプルなフォーメーションで超絶シンプルなフォークをユルく、かつアブストラクトな点描のように赤坂BLITZの広いステージで繰り広げていく。洋楽アーティストのオープニング・アクトと言えばさくっと簡潔に勢いを増す系のロックを鳴らして去っていくバンドが多いけれど、彼らの場合はそこに彼ら独自の世界をゆらりと、そして頑固に立ち上らせる意思を感じさせるものだった。
そんなテニスコーツの終演から30分のステージ転換を経て、20時を少し回ったところでついにゴティエ・バンドが登場し、“The Only Way”でショウはスタートする。この日のステージは『メイキング・ミラーズ』と前作『ライク・ドローイング・ブラッド』収録の楽曲を中心に構成されていて、フォークとエスノとエレクトロがめまぐるしく交錯するゴティエ流クロスオーヴァーがのっけから炸裂する。バンドはゴティエを含めてギター、ベース、ドラムス、キーボード&サンプラー&パーカッションの計5人。ゴティエは下手奥でパーカッション、中央で歌とキーボード、そしてドラムの横にもう一台設置されているドラム・セットと、ステージ上に主に3つの拠点を要し、曲によってそこをくるくる行き来しながら役割を変えていくという構成だ。
“The Only Way”を圧巻のツイン・ドラムで幕引いたところで「こんばんは東京! みんな元気?」とゴティエ。ちなみに彼のMCはほぼ日本語で、さすが日本留学経験のあるゴティエだけにびっくりするほど日本語が上手。続く“What Do You Want?”はパーカッションとマリアッチなギターの応酬もめちゃくちゃかっこいいバイタルなナンバーで、ヘヴィ・ロックと呼んでも過言ではない次の“Easy Way Out”と並んでゴティエの、彼の「ロック・バンド」のポテンシャルを前半で証明しきる構成になっていた。
そんなロック方面に傾いた前半から一転、続く“Smoke And Mirrors”をきっかけとしてよりアヴァンギャルドな方向へと徐々にセットリストが軌道修正されていく。ギターを打楽器のように扱い、ぶつ切りのリズムを繰り出してみたり、2台のサンプラーでラップ・バトル(!)みたいなことをしてみたり、全員がキーボードとパーカッションとサンプラーのみを扱ってミニマムなエレクトロを鳴らしてみたりと、まるでゴティエの脳内音楽をデモテープとして差し出すかのようなユニークな楽曲が続く。『メイキング・ミラーズ』でブレイクしたエレクトロポップの貴公子のイメージと裏腹に、彼は未だにこういうフリークネスを内に飼っていることが理解できる流れだ。そんなアヴァンギャルドなセクションの終盤、まるで夢から覚めるかのように力強くトライヴァルなリズムと共に“Don’t Worry, We’ll Be Watching You”が始まり、そしてこの日最初のアンセムとなる“Eyes Wide Open”が鳴り、場内は一気に覚醒する。
「東京に住んでいる人は?(大半が手を挙げる)オーストラリアから来た人?(かなりの人が手を挙げる)大阪の人は?(ほとんどいない)……ハハ、今日はトリップしてきてくれてありがとう」。そうゴティエが言って始まったのは、まさにトリップの歌と言って過言ではない“Night Drive”だ。夜の海のさざ波のようなペダルスチールの音色も素晴らしかったこの曲をきっかけとして、覚醒した場内を再びチルアウトさせるような静かな楽曲が続く。メタルホーンをフィーチャーした“Giving Me A Chance”、そして森に住む少年と町の少女の非恋を描いたバックのアニメーションも秀逸だった“Bronte”は、まるで短編映画を観ているような時間だった。
チルアウト・セクションを終えて深い余韻が立ちこめるフロアに向かって「静かだったなあ(笑)。ありがとうござます。次の曲はKimbraさんのパートを皆さんで歌ってくれますか?」とゴティエが語りかけ、ついにお待ちかねの“Somebody That I Used To Know”が投下される。直前までの深淵と打って変わってフロアは大きく波打ち合唱へ!続く“Save Me”もオーディエンス参加型のナンバーで、男子が低音、女子が高音のコーラスを担当して完璧にコール&レスポンスをこなしていく。
冒頭のクロスオーヴァーに始まり、ロック、アヴァンギャルド、ポップ、フォークとくるくる表情を変え、ゴティエという人の表現の多様性を章立てして証明していくかのようだったこの日のステージは、このクライマックスの2曲で見事に祝祭として昇華されていった。ストリングスのサンプリングとハード・エッジなギターの絡み合いが壮大な本編アウトロとして鳴った“Hearts A Mess”も素晴らしかったし、 そして何よりもアンコール・ラストの“Learnalilgivinanlovin”がとんでもなかった! ゴティエ流のソウル・ミュージック、彼の脳内音楽が殻を突き破って踊り、叫び、オーディエンスの魂を揺さぶり共振していく様は圧巻だった。(粉川しの)