Hostess Club Weekender 2日目 @ 恵比寿ガーデンホール

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今年2月に第1回が開催され、今回で2度目を迎えたHostess Club Weekender。昨日に続き第2回目2日目となる本日は、ついに再び活動をスタートさせたブロック・パーティをヘッドライナーに迎え、5組が出演するラインナップ。トップバッターを飾るのは、XL Recordingsが契約した異色の黒人アンタイ・フォーク・シンガー、ウィリス・アール・ビールだ。

Willis Earl Beal (13:00~)

Hostess Club Weekender 2日目 @ 恵比寿ガーデンホール
ザ・ビッグ・ピンクの〝ステイ・ゴールド〟に乗って、ステージに登場したウィリス・アール・ビール。サングラスに、自身の手によるイラストが描かれた黒のTシャツ、ロールアップのジーンズという出で立ちで現れた彼だが、会場のほとんどの人にとって彼の歌を聴くのは初めてだっただろう。1曲目、ワインを片手にマイクスタンドを握ってアカペラで歌い出したその声にまず驚かされる。太く、深みのあるスモーキーなヴォーカル。まるで突如、サム・クックが目の前に現れたような、そんな衝撃に撃ち抜かれる。そんな空気のまま、あっという間に終わってしまったオープニングだが、会場からは早くも「ヤバいよ!」という声が彼に向かって飛ぶ。2曲目、ステージ上のテーブルにかけられた布をとると姿を現したのは、リール型のテープ・プレイヤー。そのプレイボタンを押すと、現代的なヒップホップのトラックがスタートする。ここから、そうしたバックトラックの上で歌う曲が続くのだが、驚かされるのは、彼の歌がその肉体と切っても切れない関係性を持っていることだ。マイクスタンドを不必要に短くして前屈みで歌ってみたり、パイプ椅子の上に仁王立ちで絶唱してみたりと、ひどく奇妙で、ねじくれた体勢で歌うのだけど、そのいびつな姿勢がそのまま彼の歌となり、ソウルになっている。その象徴とも言えたのが、ギターの弾き語りで歌われた1曲。琴のように弦を上にしてつまびいていく独自のスタイルなのだが、ピュアな歌とあいまって、彼の声の普遍性を最も感じた楽曲だった。最後も会場のハンドクラップと共にアカペラで締めてしまうところも含めて、その才能の片鱗を知るには十分な時間だった。

Ariel Pink's Haunted Graffiti (14:15~)

Hostess Club Weekender 2日目 @ 恵比寿ガーデンホール
2番手として登場するのはアリエル・ピンクス・ホーンテッド・グラフィティ。来日前には解散の噂まで出たが、ステージに登場したバンドは大丈夫そう。8月にニュー・アルバム『マチュア・シームス』のリリースも決定した彼らだが、前回、自分が観たときとは変わって5人編成になっている。だから、前回までのアリエルのライヴと言えば、グシャグシャのメチャメチャのビロビロなところが最大の魅力だったのだが、今回はサウンドがだいぶ整理されている。と思いきや、2曲目からアリエルは執拗に自分のヴォーカルの音量を上げるように主張し、それに伴って全員が自分の音量を上げるように主張。このまま空中分解してしまうのか(まあ、そういう場面もあったけれど、それこそ彼らの魅力とも言えるのだけど)と思いきや、“Bright Lit Blue Skies”あたりから調子を取り戻し、新作からのニュー・シングル“Baby”が素晴らしかった。ポップ・ミュージックへのいびつな愛情と世界との距離感(この日も曲が終わる度に拍手喝采のSEを自虐的に入れていたりした)を残響のように響かせるアリエル・ピンクス・ホーンテッド・グラフィティだが、このカヴァーはそんな彼らの本質を見事に描き出していた。そして、最後に、めちゃくちゃディープな、クラウト&どサイケ・ロックをぶちかまして、ステージを降りていったアリエル。“Round And Round”も“Beverly Kills”もなしというかなり攻撃的なステージだったが、彼らの新しいモードを直に感じることができた。

Here We Go Magic (15:30~)

Hostess Club Weekender 2日目 @ 恵比寿ガーデンホール
3番手と登場したのはヒア・ウィ・ゴー・マジック。個人的には最も楽しみにしていたバンドだ。トム・ヨークやクリス・マーティンが最近のお気に入りに挙げているという前情報ももちろんだが、ナイジェル・ゴドリッチがプロデュースを手掛けたアルバム『ア・ディファレント・シップ』の出来が素晴らしかった。紅一点のベーシスト、ジェニファーを筆頭にステージに登場するメンバー、さっそく豊穣でやわらかなサウンドスープを紡ぎ始める。その音像の美しさに今日のライヴの素晴らしさを確信する。そして、バンドサウンドがついに本格的に起動し始めると、ドラムの切れ、ベースの太さを含め、音源以上にアグレッシヴなプレイに驚かされる。そして、このバンドが、例えばダーティ・プロジェクターズのように、それこそレディオヘッドのように、アンサンブルという点で多くのロック・バンドとまったく違う地平に立っていることをあらためて実感する。ステージに立つのは、ヴォーカル&ギターのルーク、ギター&キーボードのピーター、ドラムのマイケル、そしてベース&キーボードのジェニファーの4人だが、4人とはまったく思えない情報量のサウンドがステージからは放たれている。前半で早くも“Make Up Your Mind”を演奏し、トーキング・ヘッズの遺伝子を感じさせる、繊細なアンサンブルで場内の熱量を上げていく。セットリストは新作の楽曲中心。スローな情感が素晴らしかった“Over The Ocean”、軽快なギターが眩しい“Hard To Be Close”、2本のギターの絡みがこのバンドならあではと言える“I Believe In Action”。そして、もちろん最後は、新作からのリード・シングルである“How Do I Know”。この時には客席から大きなハンドクラップが巻き起こっていたが、その光景こそ今日のライヴで彼らが初の日本公演で証明したものを象徴していたと思う。

Hot Chip (17:15~)

Hostess Club Weekender 2日目 @ 恵比寿ガーデンホール
4番手と登場したホット・チップだが、盛り上がりっぷりがすごかった。開演前の時点で既に客席からは怒号のような歓声が起きていたが、7人にも及ぶメンバーがステージに現れた瞬間に場内の温度は沸点に。しかも、1曲目でいきなり名作『Warning』から名曲“And I Was A Boy From School”を投下。もちろん、アレンジは完全なダンス仕様。面白いように客席が揺れ、手という手がフロアを舞うように上がる。そう、ホット・チップの魅力とは、アルバムの楽曲が湛えている文学性やセンチメントが、いざライヴ空間になると、完璧なアンセムとして祝祭性を纏ってしまうマジックにある。2曲目は最新作『イン・アワ・ハート』からの“Don't Deny Your Heart”。マイケルへのリスペクトを感じさせるような往年のサウンドが特徴的なこの曲だが、ギター、ベース、ドラムに、DJ、キーボード2人、そしてメイン・ヴォーカルのアレクシス・テイラーという7人がかりの超肉厚サウンドでこれを再現するのだから、気持ちよくないわけがない。さらにその流れで最新シングル“Night & Day”に突入。ホット・チップの楽曲の中でもかなりマッチョなサウンドを持つこの曲だが、今日の雰囲気にはピッタリ。ここまでの3連打でホット・チップは完全にアゲアゲの空気を醸成。もうすっかりUKのロック型ダンス・アクトとしては第一人者となった彼らだが、曲間では「アリガトウゴザイマス」といった謙虚な言葉が飛び出すのも、なんだか彼ららしい。そして、この日のセットリストは、彼らのオールタイム・ベストとでもいう様相だったことがまた素晴らしかったのだ。新作からの“Flute”を挟んで、中盤に投入されたのは再び『Warning』からの名曲“Over and Over”。イントロが聴こえた時点で場内からは大きな歓声が上がり、サビではシンガロングに次ぐシンガロング。さらに最新作からの“How Do You Do?”で音源よりもさらに磨きをかけたシンセ・サウンドで場内を沸かした後は、前作『ワン・ライフ・スタンド』からの“I Feel Better”、サード『メイド・イン・ザ・ダーク』からの“Ready for the Floor”と“Hold On”という彼らのキャリアを作ってきたアンセムを、ほぼノンストップで披露するというすさまじい展開。もう近々、こうしたサイズの箱では観られないアクトになるのは間違いない気がする。

Bloc Party (19:15~)

Hostess Club Weekender 2日目 @ 恵比寿ガーデンホール
そして、もちろん大トリを飾るのはブロック・パーティーである。あの4人が再び同じステージに立っている。それだけで客席からは大歓声が飛ぶ。オープニング・トラックとなったのは、先日のグラスゴー公演と同じく、8月にリリースされる新作『Four』から“3 x 3”。当然、耳馴染みのない曲なのだが、この曲を初め前半戦はブロック・パーティーが帰ってきたという万感の思いだけで、問答無用にステージが成立してしまう、そんな印象がある。1曲目を終えたところで、オケレケが「コンニチワ。プロック・パーティーデス。ゲンキデスカ?」と流暢な日本語で挨拶。こんなところからも彼らと日本がどんな親密な関係性を築いてきたか、よく分かる。2曲目はサ―ド・アルバム『インティマシー』から“Mercury”。サウンドはバラバラ。こうやって再始動しても、まったく技術的にはうまくならないなとも思いつつ、しかし職業的なミュージシャンの在り方とはまったく別のところで、多くの発明を成し遂げてきたのがブロック・パーティーというバンドであり、だからこそインディとしてのイノセンスを一度、活動休止した今もこのバンドは有している。そうしたイノセンスと職業的なミュージシャンの在り方のジレンマが活動休止に繋がったと考えられるわけだが、ブロック・パーティーのイノセンスの正しさはこの後の楽曲で証明されていく。セカンド『ウィークエンド・イン・ザ・シティ』からの“Hunting for Witches”、“Real Talk”などの新曲を挟んでの“Song For Clay (Disappear Here)”、そして中盤に早くも演奏された“Banquet”。こうして新曲からファーストの名曲まで一気に総覧してみると、ブロック・パーティーというスタイルが如何に大きな発明だったのか、再確認させられるような気分になる。オケレケはちょっと太ったし、マットのドラムはいくぶんタイトになったもののまだドカドカいっている。でも、彼らがこうして目の前にいてくれる大切さを実感して余りある、この日はそんなステージだったのだ。ブロック・パーティー活動休止前最後のリリースとなった“One More Chance”、セカンドからの“The Prayer”、そして“So Here We Are”“Helicopter”というファーストからの2連発によってその感慨は頂点に達する。“Helicopter”では最初から大合唱。こんなにも幸福な関係性を築けることのできたバンドだったことを再確認して本編は終了。しかし、大トリである彼ら、当然のことながらアンコールが待っている。“This Modern Love”でこのバンドのソングライティングの素晴らしさを感じつつ、最後に演奏されたのはリアーナの“We Found Love”のカヴァーから“Flux”に突入するという大技の展開。こうしたところからも、よくある懐メロとしての再結成とか再始動ではなく、ちゃんと今を引き受けた上で、未来に向かって勝負しようという意志があることを実感したステージだった。濃厚だったHostess Club Weekenderの2日間はこうして幕を閉じた。(古川琢也)
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