雪もチラつくほどの寒波も恐れを成すくらいにZepp Tokyoに轟々と渦巻く熱気と雄叫びと歓声とシンガロング! 黒光りするほどに磨き上げられた楽曲世界と、今なおヘヴィ・メタルの真髄と言うべき剛性を発揮し続ける重轟音の威力!……言わずと知れたメタル・ゴッド=ジューダス・プリーストの、言わずと知れた「35年に及ぶキャリアに終止符を打つラスト・ワールド・ツアー」の一環たるジャパン・ツアー『EPITAPH JAPAN TOUR 2012』。7日:福岡サンパレスホール、9日:パシフィコ横浜国立大ホール、11日:神戸国際会館こくさいホール、13日:広島ALSOK HALL、14日:愛知芸術劇場……とサーキットしてきたジャパン・ツアーもいよいよ佳境、あとは東京の2本=16日:Zepp Tokyoと17日:日本武道館を残すのみ!ということで、開演前からフロア一丸の「プリースト!」コールが巻き起こるほどだったZepp Tokyoは、客電が消え、ステージを覆う黒幕の「EPITAPH」の文字が燦然と照らし出された瞬間にあっさりエモーションの沸点を超え、ロブ・ハルフォードの揺るぎない歌とハイトーン・シャウト、グレン・ティプトンの鋭利なギター・プレイに酔いしれている間に2時間半があっという間に過ぎてしまう。そんな圧倒的なアクトだった。
ちなみに、この後にはセットリスト含めネタバレ要素が多数含まれているため、最終日の武道館に行かれる方は終演後にお読みになることをお勧めしたいが、たとえセットリストを知ったとしても「うわ見ちゃった!」よりも「うわ何これ!」が先に立つこと必至の堂々たる内容だった。
号砲代わりの“Rapid Fire”一発でZeppのオーディエンスを完全掌握し、“Metal Gods”の力強いヘヴィ・サウンドへ、という名盤『British Steel』の流れでオイ! オイ!の大合唱を巻き起こしていくステージの5人。ステージ前面でクラップを煽り、その熱狂ぶりに思わずフロアに拍手を捧げ、「ハロー・エブリバディ! ジューダス・プリースト・イズ・バーック、ヘヴィ・メタル・メイニア!」とドスの利いた声で高らかに呼びかけるロブ。ワールド・ツアー直前にK.K.ダウニングが脱退、最後のジャパン・ツアーであのツイン・リード聴けないのは残念ではあるが、その穴を埋めたサポート・ギタリスト=リッチー・フォークナーの超絶テクニカルなプレイも、すでにグレン・ティプトンのギターおよびイアン&スコットのリズムとがっちりギアを合わせて、鋼鉄神ならではの質実剛健メタル・サウンドを高らかに響かせている。何より、超弩級スケールのサウンドのみならず、映像/レーザー光線などを駆使した演出も含め、どう考えてもホール/アリーナ・クラスがジャスト・サイズのはずの内容を、キャパ3000弱のライブハウスに持ち込んでしまったこの日のアクトの迫力! まさに音の砲弾を至近距離で浴びるような、戦慄するほどの悦楽。最高の音楽体験だ。
ハード・エッジな音の刃でZeppを狂騒の渦に叩き込んだ“Starbreaker”。疾走重戦車のようなビートで高らかな合唱空間を生み出した“Night Crawler”。ハード・バラードの奥底から熾烈なロブのシャウトが噴き上がった“Beyond The Realm Of Death”……『Jugulator』(97年)と『Demolition』(01年)以外、つまりロブ・ハルフォード在籍時のアルバムを可能な限り網羅していく(74年のデビュー盤『Rocka Rolla』の“Never Satisfied”まで!)キャリア全総括的な選曲。黒コート/革ジャン/黒シャツから地獄の使者の如き金のフードつきコートまで、各時代と楽曲をよりヴィヴィッドに映し出すように頻繁に替わるロブのコスチューム。背後のヴィジョンに映し出されるアルバム・ジャケットのアートワークを、1つ1つ時代背景も含め解説していくロブの言葉……文字通りブリティッシュ・ヘヴィ・メタルの歴史を切り開いてきたレジェンドの足跡を、1曲ごとに熱気を増すフロアとともに丹念かつ豪快に振り返っていくような壮絶な展開。極限までダイナミックでエネルギッシュなその音の背後にはしかし、どこか荘厳な儀式に臨んでいるような凛とした緊迫感が同時に漂っているのがわかる。メタル・シーンの変遷に囚われることなく、ひたすら破壊的なヘヴィ・メタルの核心を鍛え研ぎ澄ませ続けることで、絶対神と邪神を両手に携えたような音楽世界を造り上げたジューダス・プリースト。そのキャリアが、刻一刻と終末へと向かっていく。
本編ラスト2曲“Breaking The Law”“Painkiller”でZepp丸ごと割れんばかりのシンガロングへと導き、ステージを後にした5人へ向け間髪入れず送られた「ジューダス・プリースト!」の熱烈なコールには胸が熱くなったし、アンコールの“Hell Bent For Leather”でバイクにまたがってステージに現れたり、「鋼鉄神永遠也」と書かれた日の丸を羽織って意気揚々と声援に応えたり……というロブの姿は、神々しいほどの貫禄に満ちたものだった。曲が終わってメンバーが退場するたびに会場狭しと沸き上がるアンコールの声に応え、二度、三度と再度オン・ステージし、最後は“Living After Midnight”で観る者すべての情熱と衝動を完全に炸裂させてみせる、あまりに見事なフィナーレだった。ステージで5人で手を取り合う最高に誇らしい姿が、同時に言いようのない寂寞感を伴って、胸に迫った。17日はいよいよジャパン・ツアーの最終公演=日本武道館! 招聘元=クリエイティブマンの公式HPによれば17時から当日券も販売されるとのこと。世界に冠たる鋼鉄神、正真正銘日本最後の雄姿。ぜひとも1人でも多く目撃してほしい。(高橋智樹)
[SET LIST]
01.Rapid Fire
02.Metal Gods
03.Heading For The Highway
04.Judas Rising
05.Starbreaker
06.Victim Of Changes
07.Never Satisfied
08.Diamonds And Rust[Joan Baez cover]
09.Prophecy
10.Night Crawler
11.Turbo Lover
12.Beyond The Realm Of Death
13.The Sentinel
14.Blood Red Skies
15.The Green Manalishi(With the Two Pronged Crown)[Fleetwood Mac cover]
16.Breaking The Law
17.Painkiller
Encore1
18.The Hellion~Electric Eye
19.Hell Bent For Leather
Encore2
20.You've Got Another Thing Comin'
Encore3
21.Living After Midnight
ジューダス・プリースト @ Zepp Tokyo
2012.02.16