sleepy.ac@SHIBUYA PLEASURE PLEASURE

sleepy.ac@SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
sleepy.ac@SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
sleepy.ac@SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
sleepy.ac@SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
sleepy.ac@SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
sleepy.ac@SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
今年6月より全国ツアーを開始した、sleepy.abのアコースティック編成sleepy.ac。同ツアーは、7月10日の札幌公演でファイナルを迎えたが、ファンからの反響があまりに大きく、急遽9月に全3会場の追加公演を行うことが発表され、本日はその初日、SHIBUYA PLEASURE PLEASURE。この会場は、RO69のライブレポートでは初登場なので少し説明すると、昨年1月に閉館した映画館「渋谷ピカデリー」跡に今年3月にオープンしたライブハウスで、座席数は1、2階あわせて318。エントランスもきちんと手入れされていて、床はピカピカに磨き上げられている。フロアの方は、「ピカデリー」で使っていた設備を再利用し、ふっかふかのシートの横にはドリンクホルダーも設けられて、ミニ・シアターのような劇場のようなそんな雰囲気である。これまでに地元・札幌にあるクラシック・ホール「kitara」をはじめ、プラネタリウムや酒蔵でもライブを行ってきたsleepy.acだが、一昨日9月15日には、この名義のライブ・アルバムがリリースされ、ベースの田中がライブ中のMCで語っていたように、今宵のライブはCDの帯に書かれた「安眠導入盤」ならぬ「安眠導入ライブ」。チケットはもちろんソールド・アウトしている。

場内がすうっと暗転したのは19:00を少し回った頃。息をするのもはばかれるような静寂が会場を覆い、深いブルーでライトアップされたステージにメンバー4人が登場する。1曲目に演奏されたのは“PAIN”。張り詰めていた緊張の糸が、山内がやわらかく奏でるギターの音色によってゆっくりと解きほどかれてゆく。かすかにリズムを刻む津波の素朴なカホン、ウッド・ベースのような暖かくて落ち着いた音を鳴らす田中のベース・プレイ、今にも消え入りそうな成山の優しいファルセット・ボイス。なかば逃避的で、明白なまでに夢うつつな彼らの音像は、暗い時代に落とした優しい催眠剤のように聴こえる。

3曲目に披露された“アクアリウム”は、abの浮遊感溢れる音響美とは大きく異なり、ミニマムな編成によって音数が省かれ、楽曲が本来持っていた物哀しい旋律を浮き彫りにさせる。耳を澄ませてわずかに聴こえる成山と田中のコーラス・ワークも親密な感じがしてとてもいい。それらは軽やかで開放的でオーガニックなものではなく、自分の部屋で4人がひっそりと演奏してくれるような内省的で個人的な音楽体験だった。続いて80年代にNHKみんなのうたでオンエアされていた谷山浩子“まっくら森の歌”をカバー。僕は幼い頃にこの曲を聴いた時「まっくら クライクライ」という歌詞にとても恐怖したものだ。しかし、鬱蒼とした恐ろしい森の中に響き渡る成山の声は、闇の中にも光り輝くもの、大切なもの、美しいものがあるんだ、ということを聴き手の内側に深く突き刺し、sleepyが描き出す光と闇のコントラストと見事にシンクロしていた。

山内がたどたどしく操るグロッケンと成山のギター・アルペジオで、北欧エレクトロニカのようなひんやりと澄んだ空気感の中に暖かみを内包する“メロウ”、「月に描いた幻…」と津波の繊細なコーラスが印象的だった“ドレミ”。それに続くステージがやわらかいオレンジ色に照らされる中で披露された“palette”では、山内のマトリョミン(マトリョーシカ型のテルミン)の「照美さん」(と呼んでいる)を使ったあのパフォーマンスも。間奏でマトリョミンを演奏しながら立ったり座ったりと急にそわそわし始めた山内は、不可思議な音色を出しながらステージを降り、客席を歩き回る。突然の出来事にオーディエンスは大爆笑。たまたま空いていた客席の1つに座ったり、あんまりステージから離れるものだから「そっちに行くと怒られるよ!」と成山に突っ込まれたりして、無事にステージに帰還…と思いきや、壇上に登るのに手間取ってしまう山内。「kitalaではすごいジャンプしてたのにね」となだめる成山は、ペットの猫を見守る飼い主みたいである。山内が無事に帰還すると、客席からは大きな拍手が送られる、ピースフルな一幕だった。(ちなみに札幌公演では山内が歩き回りすぎて曲が9分まで及んでしまったとか)

山内はマトリョミンのほかにも、“さかなになって”でアンデス(あのリコーダーような音が出る鍵盤楽器)を演奏してメルヘンチックな世界を描いたり、ボサノヴァ調にアレンジされたピチカート・ファイヴのカバー“メッセージ・ソング”でグロッケンやオートハープを弾いている。abでは、様々なエフェクターを巧みに操って神秘的なサウンドを構築していく職人肌の彼だけど、acでの彼はマッドサイエンティストのようで、様々な音をミニマリスティックなバンドの演奏にコラージュさせ、色をつけていく。abでもacでも、sleepyのサウンドはやはり彼が要なのだろう。

本編ラストは“君と背景”、“夢織り歌”の2曲。成山と山内のギターがかすかに触れ合い、そこにどこまでも暖かい田中のベース・ラインと津波のカホンが絡んでいく。触ったら崩れてしまいそうな繊細なアンサンブル、そこに宿る小さくて内向きのエモーション。これはabとも共通するのだけど、彼らは音を「鳴らす」と同時に、音が「鳴っていない」空白をとても大切にしているように思えた。音が鳴っていない状態の白い画用紙に、一本一本鉛筆で線を引いていくように音を奏でていく。そんな丁寧な作業から生み出される音像とメロディ、そして語りかけるように響く言葉。acを見ていると、そんな手工業的なやわらかな側面が透けて見え、彼らとの距離がぐっと近くに感じられる。

アンコールでは、11月のシングルリリースが告知され(ただし詳細は未定)山内考案のグッズ、イカの形をしたカリンバ「イカリンバ」を紹介。(Youtubeではイカリンバ講座という動画もアップされている→http://www.youtube.com/watch?v=auMe99A-WE0)、そのつながりで山内がカリンバを使用した楽曲“メリーゴーランド”を披露し、続くラストは“ねむろ”。彼らの紡ぎだす音像がなぜこんなにも綺麗で、なぜこんなにも汚れていないのだろうか。いつもこの曲を聴くとそんな風に思う。彼らが地元の北海道を離れずに、自分たちの活動する環境とペースを大切にしている強い意志がこの楽曲には宿っている。

今回の追加公演は、9月25日の札幌スターライトドームでファイナルを迎える。11月22日には渋谷O-EASTにて、sleepy.abのワンマンライブも発表され、そこでは来るべきニュー・アルバムの全貌も明かされるという。

全ての楽曲が終わり、まだ夢見がちなオーディエンスに向かって最後に成山はこう言った。「おやすみなさい」(古川純基)
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする
音楽WEBメディア rockin’on.com
邦楽誌 ROCKIN’ON JAPAN
洋楽誌 rockin’on