[Alexandros]/幕張メッセ国際展示場9-11ホール

[Alexandros]/幕張メッセ国際展示場9-11ホール - Photo by Tetsuya YamakawaPhoto by Tetsuya Yamakawa

●セットリスト
1.For Freedom
2.She's Very
3.city
4.Rocknrolla!
5.You're So Sweet & I Love You
6.Waitress, Waitress!
7.Kick&Spin
8.Starrrrrrr
9.Droshky!
10.Dracula La
11.Adventure
12.ワタリドリ
13.NEW WALL
14.Feel like
15.LAST MINUTE
16.Mosquito Bite
17.PARTY IS OVER
(アンコール)
EN1.rooftop
EN2.Beast
EN3.風になって
EN4.Untitled
EN5.閃光


バンドの一時代に区切りを付け門出を祝うコンセプチュアルなライブであり、一方その裏側では、今に付き纏う事柄に落とし前を付けようとする激しいエモーションが渦巻いていた。「[Alexandros] 10th ANNIVERSARY LIVE at 国立代々木競技場 第一体育館 “Where’s My Yoyogi?”」の2日間は、そもそもこの1月にスケジュールされていた公演が、新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言発出に伴い、今回の幕張メッセへと振替られたものだ。当初は昨年5月に予定されていたベスト盤『Where's My History?』もようやく3月17日にリリースされ、なんと言っても今回のステージは先送りを重ねていた庄村聡泰(Dr)の勇退記念公演である。WOWOWにて生中継も行われた2日目の模様を、レポートしたい。

ステージ背景にはLEDスクリーンが設営され、パフォーマンスの映像は常に、色彩を変えながら煌めく巨大な[]の中で行われている。つまり[]の中の出来事が、バンドの物語というわけだ。川上洋平(Vo・G)、磯部寛之(B・Cho)、白井眞輝(G)、サポートメンバーにはROSE(Key/THE LED SNAIL)と、サトヤスの顔がプリントされたTシャツ着用のリアド偉武(Dr)。刺激的な音出し一発から、デビューアルバム収録の“For Freedom”を切り出すオープニングだ。セットリストは、ほぼ楽曲発表の時系列に沿って並べられたベスト盤的選曲であり、つまり『Where's My History?』で言うところの[C]盤収録曲から、ということになる。

[Alexandros]/幕張メッセ国際展示場9-11ホール - Photo by Tetsuya YamakawaPhoto by Tetsuya Yamakawa

演奏曲の時系列と並行して、今回のライブでは所々に、バンドの歩みを振り返るショートドラマが挿入される。子役の男の子たちがメンバーとして配役され(しかもみんなよく似ている)、学生時代に磯部が失恋してバンドに誘われたエピソードやら、サトヤス加入のいきさつなどがコミカルに描かれるのだ。面白いけれど、ショートドラマによってライブの高揚感や流れが寸断されてしまうのではないかと、最初は少し心配になった。しかしそうではなかったのだ。[C]の時代のアクロバティックな高機動型ロックンロールが、今の[Alexandros]の体幹の強いリッチなバンドアンサンブルで幕張メッセに轟き、逐一猛烈な勢いで高揚感や熱気を巻き返す。これでもかと必殺曲が並ぶセットリストで、10周年記念ライブならではのスペシャルな手応えをもたらしていた。

[Alexandros]/幕張メッセ国際展示場9-11ホール - Photo by 河本悠貴Photo by 河本悠貴

2012年のレコーディング風景を回想するドラマ(サトヤス役の子が、高い位置のクラッシュシンバルに懸命に腕を伸ばしているのが可愛い)を経ての“Waitress, Waitress!”。白井が花道突端のサブステージまで移動してギターを弾きまくる“Kick&Spin”。川上は、「今日はお前ら歌えないかもしれないけど、心の中で歌ってくれよ! いつも以上に歌え!」と言葉を投げかける。バンド名変更の必要に迫られてメンバー役の子たちが頭を悩ませるドラマの後には、ファイアーボールの吹き上がる熱狂の中で“Droshky!”のカオティックなアンサンブルが轟いた。

“Adventure”の時、本来ならシンガロングが巻き起こされているはずのフロアに、川上が映像のカメラを向ける。この瞬間にはグッとくるものがあった。「歌えなくても大丈夫」なんて気休めはいらない。全然大丈夫じゃない異常な事態の中で、それでも我々はこの違和感と真っ直ぐに向き合いながらライブに臨むのだという[Alexandros]の気概が、そしてオーディエンスの思いが、心の歌声の充満したフロアに見えた気がした。

[Alexandros]/幕張メッセ国際展示場9-11ホール - Photo by Tetsuya YamakawaPhoto by Tetsuya Yamakawa

磯部が、今回のライブに足を運ぶことができなかったファンにも配慮しつつ「サトヤスね、今日で勇退になります。あいつ今日、バースデーボーイじゃん」と告げると、川上はサトヤスが初めてサポートドラマーを務めた2010年のツアーもちょうど3月だったことを振り返る。白井は、高校の先輩後輩の間柄だったことや、後の共同生活のことを回想しつつ「まだそんなに実感が湧いていなくて。今日という日を楽しんで帰りたいと思います」と語った。そんなMCに続くのは、それぞれの新しい旅立ちに捧げられるような“ワタリドリ”である。

めくるめく音のレイヤー。サーモグラフィのように加工されたクールなライブ映像。コンテンポラリーなデザインのロックを次々に披露しながら、ライブの中の[Alexandros]の時間は「現在」へと向かってゆく。歴代のライブ写真を配した映像と共に届けられるのは“PARTY IS OVER”だ。花道に紙吹雪が舞い、フロア一面にハンドウェーブが巻き起こされる。そしてエモーショナルなギター残響を引き摺りながら、本編は幕を閉じるのだった。

[Alexandros]/幕張メッセ国際展示場9-11ホール - Photo by 河本悠貴Photo by 河本悠貴

スクリーンに浮かぶ文字が「PARTY IS NOT OVER」へと移り変わって始まったアンコール。サブステージに川上とROSE、ステージから突き出した両翼にそれぞれ磯部と白井が立って届けられる“rooftop”は、このコロナ禍にかけ離れてしまった我々の距離を埋めるようなパフォーマンスになった。分断の時代に猛り狂う“Beast”、さらに“風になって”を披露している間に、サブステージにはドラムセットがセッティングされる。そこに晴れて呼び込まれるのは、庄村聡泰である。

[Alexandros]/幕張メッセ国際展示場9-11ホール - Photo by Tetsuya YamakawaPhoto by Tetsuya Yamakawa
[Alexandros]/幕張メッセ国際展示場9-11ホール - Photo by 河本悠貴Photo by 河本悠貴

フロア後方から白いハット姿で颯爽と登場し、合流したメンバーとハグを交わす。この4人で披露される1曲は“Untitled”。キックとスネアが入ってくるあの瞬間、夢を抱いて走る4人のドラマは永遠になった。サトヤスが感極まった表情でプレイしているように見えたのは、気のせいだろうか。ひときわ大きく温かな拍手に包まれた彼らは肩を組み、メインステージへと戻ってゆく。並んで深くお辞儀をすると、サトヤスはステージのほうを向いてあらためて一礼し、去っていった。

「門出だし、明るくとか言いながら、ほんとダメ、こういうの」。磯部も溢れ出す感情を押し殺すような、なんとも言えない笑顔を浮かべている。そして[Alexandros]の門出でもある新曲“閃光”が、エモーショナルなコーラスと共に駆け抜けて、今回のステージは幕を閉じた。エンディングに届けられたショートドラマでは「サトヤス、おつかれー」と妙に軽いノリで見送る3人。そして「今年、けっこうライブあるじゃん!」と、6月以降の新たなライブツアーのスケジュールが発表された。もう既に「次」は始まっているのである。(小池宏和)

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