04年のサマーソニックではDJスタイルだったが、今回は生バンドを引き連れてのステージ。開演時間から5分ほどして、ドラム、ベース、ギター、ホーン、キーボードという5人編成のバンドの面々が登場。EW&Fの“宇宙のファンタジー”、レッド・ツェッペリン“カシミール”、スヌープ・ドギー・ドッグ“センシュアル・セダクション”なんかを続々と演奏し出すものだから、一体この先どうなるのかと面食らってしまった。
手元の時計で20時17分、遂にNASが登場。1曲目は最新作『無題』から“N.I.*.*.E.R.(ザ・スレイヴ・アンド・ザ・マスター)”。批判を恐れず、犠牲を恐れず主張を通していくんだ、というようなNASの意志をあらためて表明している曲だが、NASの意識の高さと言葉遣いの巧みさあってこそ、リリースが可能になったのだろうと思わせる過激な楽曲でもある。それを冒頭にもってきたところに、NASのテンションの高さが伺える。そして“ヒップ・ホップ・イズ・デッド”“スライ・フォックス”といった近作からの楽曲が続いた後、これまで9枚リリースしている各アルバムの代表曲ともいえる曲を続々と披露。“N.Y.State Of Mind”のイントロが鳴り出した瞬間の場内の悲鳴ったらなかったし、NASも曲の肝である「ニューヨークの心〜」の部分を「Tokyo State Of Mind」と言い換えてて、またそこでも歓声が上がっていた。
MCで「1991から2008まで」、というようなことを言っていたけど、NASの事実上のデビュー曲でもある、メインソース(ラージ・プロフェッサーらが名を連ねた伝説的グループ)の“Live At The BBQ”もパフォーマンス! もちろんフロアは「ゲッチョ〜」とレスポンス。“リプレゼント”“ワールド・イズ・ユアーズ”“ヒーロー”“アイ・キャン”“ゴッド・ユアセルフ・ア・ガン”“メード・ユー・ルック”なんかでもコーラスやフック・パートの大合唱が。
ほぼノンストップで、これらのヒット曲を次々繰り出していく。NASの声量も始終安定していて、とにかくそのスタミナには驚かされるばかり。攻撃的にもリリカルにも振れていくフロウは、澱みがなく一貫してリズミカル。言葉の輪郭がはっきりしていて、あのリリックがさらに強い説得力をもってフロアに届けられる。なぜ、NASだけが特別なのか。音楽性、パフォーマーとしての力量、そしてリリックの強度が図抜けているからなのだ、ということをあらためて実証する力演だった。
フロアのあちこちからNASとともにラップを唱和する声が聞こえてきて、そのリリックの求心力をあらためて思い知った。自分は、あの歌詞に一貫してあるタフな心の有り様に惹かれてやまないのだけど、身体に沁みこんでるフレーズのあれこれが、生々しい臨場感をもって胸をえぐってきた。
特にラストの“ワン・マイク”は最高と言うほかない。場内の明かりは、ステージのNASを照らすピン・スポットだけという演出。生演奏の躍動感が、この曲の叙情性をさらに高めていた。最高潮になったフロアからの合唱も感動的すぎる。「オレに必要なのは1本のマイク、ビートもステージも一つ〜」というあのフレーズは、シンプルだけどヒップホップの真髄を射抜く、世紀の大発明フレーズだと思う。(森田美喜子)