オープニングSEの“最後の国(Introduction)”に満場のハンド・クラップが折り重なり、そこに大木伸夫、佐藤雅俊(B)、浦山一悟(Dr)が登場する。投票の上位30曲の中から更に厳選して決定したというセットリスト、その1曲目は、大木が爪弾くイントロのギター・フレーズが物語の幕開けを運ぶ“Stay on Land”だ。「今日という日は2度と来ません。戻ってきません。だから一分一秒を大切に楽しみましょう! 最後までよろしく!」と大木が挨拶を投げ掛け、続いて一悟の威勢の良い4カウントに導かれるのは、大木の言葉を裏付けるような“式日”である。オーディエンスが曲間を繋ぎ止めるように手を打ち鳴らし、ノンストップで大木のディレイ・リフとサトマの動き回るベース・ラインが交錯する“migration 1064”、まだ止まらない、ACIDMANらしく静と動のコントラストを一息に駆け抜ける“スロウレイン”で、世界に生の意味を吹き込んでみせた。
そんな一悟が、東京を拠点に活動し始めた頃を振り返り、下北沢GARAGEでの動員記録を打ち出したというエピソードも語りながら披露するのは、デビュー・アルバムに収録された“揺れる球体”である。そして“プリズムの夜”から“OVER”という、ACIDMANの精微でジェントルな演奏力も際立つ楽曲群は、しっかりと中盤戦のハイライトを刻み付けていた。大木は「奇麗なままの心では生きられないけれど、だからこそ人は奇麗なものを求めるんだと思います」「生きとし生けるものはすべて死にます。そんなことを歌っても聴きたくない、という人もいるかもれないし、俺も昔はそうでした。でもそう思うことで、世界が変わるんですよ。毎日がとても愛おしいものになって」と、自らが生み出して来た楽曲群を噛み締めるように語り“季節の灯”へと向かう。それは、なぜ素晴らしい音楽が生み出され、素晴らしい音楽が求められるのか、ということの本質とも密接に関わる話だろう。過去にACIDMANが繰り広げてきた文字通りに生々しいライヴ体験や、「second line」シリーズを引き合いに出すまでもなく、この夜にACIDMANが披露する往年の楽曲群もまた、確かに「生きて」いたのだ。
アンコールでは、「ルール違反やってもいいですか?」と4月にリリースしたシングル曲“EVERLIGHT”を切り出し、“ドライド アウト”も挟み込むと、目一杯パンキッシュに弾ける“培養スマッシュパーティー”へ。投票上位30曲にランクインしながら、これまでの日程ではセット・リストに含めることができなかったという“酸化空”については「インディーズ時代のスタッフが、やれ、やれってうるさいんですよ(笑)」と語りつつ披露する。今回の投票に用いられたモバイル・サイト「ACIDMAN MOBILE」では、終演直後に投票結果が発表されることもアナウンスされ、大木は「覗いてみると、面白いですよ。他のバンドの倍ぐらいのコンテンツでやってますからね。楽しくて。そのことを伝えたいがためのツアーでした」と告げると、この日も全23曲を堂々締め括るべくドラマティックに披露されたのは“ALMA”だ。命と意味を吹き込まれた音楽が、命と意味を持つすべての人々によって支えられたステージであった。メンバーも意欲を見せていたけれど、またこの企画に出会えることを楽しみにしていたい。(小池宏和)
■セットリスト
01.Stay on Land
02.式日
03.migration 1064
04.スロウレイン
05.id-イド-
06.River
07.プラタナス
08.静かなる嘘と調和
09.コーダ
10.揺れる球体
11.プリズムの夜
12.OVER
13.季節の灯
14.銀河の街
15.FREE STAR
16.風、冴ゆる
17.ある証明
18.and world
(encore)
19.EVERLIGHT
20.ドライド アウト
21.培養スマッシュパーティー
22.酸化空
23.ALMA