【インタビュー】「暗い曲ばかり書いていた」Ranが「好き」をテーマにした新曲“予感”に辿り着くまで

【インタビュー】「暗い曲ばかり書いていた」Ranが「好き」をテーマにした新曲“予感”に辿り着くまで

結局、自分が本当に思っていることを歌わないとダメだなと思った

──では、新曲“予感”について聞かせてください。初めてのCMタイアップ曲ですが、「好き」をキーワードにした楽曲だそうですね。

それがいちばん大きかったですね。企業のコンセプトについての資料をいただいたんですけど、その中に「『好き』で世界が回る」という内容があって。自分自身、めちゃくちゃ共感できたんですよね。歌うことが好きじゃなかったら『カノ嘘』を観てもそこまで感じなかっただろうし、ボーカルスクールにも通ってなかったと思うんですよ。上京して、こうやって活動できているのも全部、歌うことや音楽を作るのが好きだからだなって。落ち込んで「何も聴きたくない」「何も見たくない」ということはあるんですけど、そういうフェーズでも歌っちゃうんですよ。歌うことを心底嫌いになることはないし、必要不可欠なんだなって。ただ、“予感”の制作は結構、大変だったんです。「好き」というキーワードはあったんですけど、私は組織に属して働いたことがないし、仕事のなかで「好き」を見つけるという捉え方が難しくて。ワンコーラス作るのに1ヶ月くらいかかった記憶があります。

──歌詞とメロディ、どっちが先なんですか?

言葉とメロディを一緒に作ることが多いですね。「この言葉を使いたいから、それに合うメロディを考えよう」とか「このメロにどんな言葉を充てたらいいだろう?」とか。そこが決まらないと先に進めないんですよね。“予感”について言えば、やっぱりAメロの出だしが大事で。《ことばのあやかもね あの日おきたのは/壁に貼るフライヤー 明日には落ちてた》から始まるんですけど、そこが決まってからようやく動き出した感じですね。この歌詞、iPhoneに残ってたメモがもとになっていて。ライブハウスでもらったフライヤーを自分の部屋の壁に張ってるんですけど、すぐ落ちてきちゃうんですよ(笑)。しかも寝てる頭のところにたまっていくから、「マジでどうにかなんないかな」っていう。そのメモを見て、ちょっと面白いかもと思ったのがきっかけでした。結局、嫌なことや沈んだ気持ちから書き始めるのは変わらないんだなって。


──そこがRanさんのソングライティングの軸なんですね。“予感”には「好き」というテーマがしっかり流れていますけど、決してハッピーで前向きなだけではなくて。《たきつけの悪魔 それに勝る声/残してた傷はもうきえた》という歌詞もそうですが、Ranさんの個性が反映されていると思います。

ありがとうございます。制作しているときは「もっと幸福寄りの曲にしたほうがいいのかな」「もうちょっと『未来へ』というメッセージがあったほうがいいかも」と悩んだんですけど、結局、自分が本当に思っていることを歌わないとダメだなと思って。毎日いろんなことがあるし、「これができなかった」「ここが足りなかった」ということもありますけど、それでも明日は来るし、また頑張っていかないといけない。どうして頑張れるのか?と言ったら、やっぱり好きなことだからなんですよ。そのことが自分の中でハッキリしたことで、この曲の歌詞が書けたんだと思います。

──なるほど。弦楽器とバンドサウンドを組み合わせたアレンジも、楽曲に込めたメッセージを際立たせていて。編曲に関してはどんなやり取りがあったんですか?

以前リリースした“ビーナス”という曲をアレンジしてくれた宮永治郎さんにお願いしました。最初はそんなに弦楽器が入ってなかったんですけど、アレンジしていく段階で今のような形になって。音数は少ないんですけど、全体的に広がりや重さが感じられて、めちゃくちゃ壮大で。初めて弦楽器のレコーディングに立ち会わせてもらったんですけど、すごく感動しました。

【インタビュー】「暗い曲ばかり書いていた」Ranが「好き」をテーマにした新曲“予感”に辿り着くまで

やるからには何かを残したい。自分の曲が「同じような経験をした人に届いてほしい」気持ちが強い

──Ranさんは“予感”に関するコメントで「私自身、曲を作ったり歌ったり『音楽』という好きなことをして生活しています。ただそれだけじゃどうしようもない時があって」と記していて。「それだけじゃどうしようもない時」というのは、具体的にはどんなことなんですか?

やっぱり曲を書いているときですね。さっきもお話したように歌うことは大好きなんですけど、なかなか曲ができないこともあるし、ずっと難しいなと思ってます。

──自分自身のネガティブな感情と向き合うことにもなりますからね。

そうなんですよね。たとえばお酒を飲みに行って、いい気持になってるときは「よし、曲を作ろう」と思わないんです。それよりも二日酔いの朝だったり、鬱っぽくなってるときに作りたくなる。ただ、何かきっかけがあるとそこに入り込めるタイプではあるんです。“予感”のときは「壁に張ったフライヤーが落ちてきてウザい」だったんですけど、そういう出来事や感情をずっとメモしているんですよ。そういうことを見逃さないようにして、ためておくことが大事なのかなって。感じたこと、思ったことって、やっぱり忘れちゃうじゃないですか。

──コメントには「何ができるのかと悩む部分もあります」という一文もありますが、その思いも続いていますか?

はい。大きく言うと、やるからには何かを残したくて。自分が作った曲が「同じような状況の人、同じような経験をした人に届いてほしい」という気持ちも強いし、ライブでもそのことをいちばん思いながら歌っているんですよ。新しい曲を作るたびにそう思うし、コラボ曲のときもいろんな人に届いているなという実感があって。

──“予感”を生み出せたことも、大きなきっかけになりそうですね。

そう思います。自分としてはシンプルに表現できたなと思っているんですよ。今まではもっと抽象的というか、「この気持ちをどうやって喩えようか」みたいな書き方が多かったし、いい喩えが浮かばないことにイライラすることもあって。“予感”はそうではなくて、自分の気持ちをシンプルに書けたんじゃないかなと。

──そのことを象徴しているのが《どこまでもあたし 行って》という最後のラインですよね。ここに来てようやく、自分自身を受け入れられるようになったのでは?

そうかもしれないです。自分を受け入れるというか、理解するというか、そのうえで「やめたければやめてもいいし、頑張りたいことを頑張ればいい」みたいな気持ちがあって。たとえば「もうギターは無理」と思えばハンドマイクで歌えばいいし(笑)、「ここは自分が得意なことろ、好きだと思うことを頑張ろう」っていう。自分を受け入れて、うまく選択しながらやっていきたいなって思ってますね、今は。

──すごく前向きな変化じゃないですか。

そうですね。人との接し方もそうだし、物事の捉え方もそうですけど、いろいろ変化している中で“予感”を書いたので。ただ、根本は変わらないだろうなとも思ってるんですよ。確かに以前と比べるとオープンになってるんですけど、家に帰ればやっぱり暗かったりするので(笑)。その中でうまくバランスを取ることが大事なんだろうなって思ってます。

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